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霊群の杜
縊鬼
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いたのだが、そいつが中々姿を現さない。待ちくたびれた頃、その男が現れたが様子がおかしい。
「急用ができたので、今日は帰ります」
そう云って帰ろうとする。火消しの組頭は男を帰すまいと酒をどんどん勧め、男も酒を呑むうちに約束を忘れた。
やがて、門の外から『何某が首を吊って死んだ』という騒ぎ声が聞こえて来た。

組頭は得心した顔で「これで、お前についていた縊鬼が落ちた」と云った。

「…男は首を吊る事を、大事な約束と思い込んでいたそうだ」
「そうか。…そして俺が縊鬼が宿っている枝を切り落としたから、縊鬼が去ったのか」
お陰で飛縁魔に借りを作ってしまったが。そう一人で得心していると、奉が眉をひそめた。
「何云ってんだ?縊鬼は川に棲む妖だぞ?」
……え?
「あー…首吊り松か何かとごっちゃにしているんだねぇ。縊鬼はな、川に落ちて死んだ者の霊だ。そいつが人を死に誘う。船幽霊といい、海座頭といい、水に関する妖ってのは嫌だねぇ…」
何かにつけ、他人を死に引きずり込もうとする…そう云って奉は小さく笑った。
「何で首吊りなんでしょう…川のものなら、川に引き込むのでは?」
静流さんが首を傾げる。…もっともな疑問だ。
「致死率の問題…かねぇ。例えばそれが海であれば、船を沈められた時点で助かる術はまぁ…ほぼないね。だが、川なら」
「頑張れば、何とかなるかも…なんて」
「それな。実体を持たない霊であるかぎり、河童のように力技で引きずり込んだり、尻こ玉を抜いて確実に仕留めることは出来ん。第一、いくら正気を失った状態だとしてもだ。川に漬かれば冷たいし、息が吸えなければ苦しい。正気に返るワンチャン与えてしまうねぇ。だが首吊りなら」
くっ…と縄で首を吊る振りをして、奉は舌を出した。
「吊った時点で、お仕舞いだ」
「…ならあれは首吊りの木だったんだな。俺が枝を落とした途端に消えたし」
「首吊り松は、場所の怪だ。枝を見て発作的に『吊る』。そういうものだ」
だがソレは、お前の知り合いの女子に憑いてきたのだろう?そう云って奉は俺の顔を覗き込んだ。吊らなければという思いが終始付きまとい、最終的に何処ぞで吊る。場所は問わない。
「なら、静流さんは何であの木で首を吊るって知ってたんだ」
「馬鹿かお前は。…この女は、未来視だろう?」
「はい…あの子とすれ違った時、あの木で首を吊る姿が見えて…」
「で、のこのこ一人で後を追ったってか、馬鹿正直に。ノープランにも」
「あの、はい…すみません…」
「云い過ぎだ。お陰で人が死なずに済んだだろう」
「へぇ庇うねぇ。可愛い彼女のことは」
絶妙なタイミングで現れたきじとらさんが、静流さんの手前に丁寧に豆大福の皿を置き、にっこりと笑った。…女は怖い。
「枝を落とした途端に縊鬼が消えたのはな」
鎌鼬を3匹も飼ってる
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