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霊群の杜
縊鬼
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んが、子供のように顔をくしゃくしゃにして胸に飛び込んできた。何が起こっているのかさっぱり分からないのでどう声を掛ければよいのか分からないが、とりあえず落ち着かせるために、ぽんぽんと軽く背中を叩いた。
肩が、小刻みに震えていた。
「…なんか…すごく厭な気配がしたからっ…よく見たら…良くないものがあの子の後ろに…わ、わたし…」
事情を聞いてもよく分からないが、つまり静流さんはあの子が首を吊る状況を未来視したのだろう。そして彼女なりに、助けようとしたのだ。…ビビリのくせに。
「頑張ったんだね」
髪から、ふわりといい匂いがした。


「―――ふぅ〜ん、その人が結貴くんの彼女か〜」


どっ…と冷や汗が溢れた。
いい雰囲気に乗せられるように、背中に両手を回そうとした俺の背後で、二人の女怪が目を光らせていた。



「縊鬼、という妖が居る」
あれから数日。
目に余る程、蓬髪を生えるが儘にほったらかしにした奉を鎌鼬で刈り込みに行った際、念のために静流さんと俺に起こった事を話した。俺が首吊りの枝を切り落とし、一時的に『危機』らしきものは去ったように見えるが、俺は未だにあれが何で、何故俺やあの女子が首を吊ることに義務すら覚えていたのか、さっぱり分からない。
あの女子…鈴木さんは、首吊り騒動に関する全ての記憶を持っていた。ただ俺と同じく、首吊りは小テストやバイトと同じように『する予定のもの』くらいの認識になっていたらしい。正気を取り戻した鈴木さんは、自分がやらかした事に心底驚き、泣きながら静流さんに謝っていた。
「いつき…?」
「縊れ、鬼と書く」
「首を括らせる鬼、ですか」
初めて書の洞を訪れた静流さんが、少し首を傾げて相槌を打った。
きじとらさんが、温かい茶を持って来てくれた。静流さんは少しおどおどしながら茶碗を受け取る。…ターボ婆さん遭遇事件の際、彼女らは一度だけ対面しているが、きじとらさんは脅威の塩対応で静流さんを震え上がらせている。奉には『あの眼鏡を連れてこい』と指示されてはいたが、一抹の不安を隠せずにいた俺だ。
「あの…ありがとうございます…」
「いえ、うふふ…豆大福もお持ちしますね」
きじとらさんは口元に手を当ててクスクス笑いながら、暗がりに戻っていった。…え?なにこの対応の変化。
「―――おい、奉」
貴様、きじとらさんに静流さんの事を俺の彼女だと吹き込んだな。文句の一つも云おうかと身を乗り出すと、奉は文庫本から顔を上げて口元に指をあてた。
「眼鏡をここに出入りさせるためには、これしか手段がないんでねぇ」
「え、出入りさせるって」
「便利だろうが、未来視」
この男は全く…。
「話を戻すか。…こんな話がある」
江戸時代。
火消し達が酒を持ち寄り宴を開いていた。火消し仲間の中には、面白い話をする奴が
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