縊鬼
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ていた。疾風の渦が奔り、ビニール紐が四散する。彼女の喉に一筋だけ走った傷に、思わず舌打ちが漏れた。静流さんが、黒髪をふわりと靡かせて崩れ落ちた。
「誰だ!」
ビニール紐の端を握っていた女は、夢でも見ているような顔で掌を開いた。細切れと化した紐が、ふわりと落ちた。
「…首を」
首を、吊らないと。首を…そう呟きながら、女は木の幹にもたれかかる静流さんの首に手を掛けた。嫌、と小さな声をあげて弱弱しく静流さんが抗う。
俺はあの女を知っている。第二選択の中国語クラスで見かける子だ。何度か席が隣になったことがある。
「ちょ…どうして!?」
知り合いと分かってしまうと、俺は情けない程に日和ってしまった。2人の間に入って彼女を押し留めようとすると、彼女はその指を俺の首に掛けた。…何だ!?何故俺が襲われる!?
「やめっ…何でだよ!?」
「だって、首を吊らないと…」
彼女は首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。まるで『そこのページ、明日の小テストの範囲だよ?』とでも云う時のような軽い口調で。…何か、酷く厭な気配が俺たちを包み込んでいた。彼女の両手を掴み、首から引き剥がしたが…何故だろう。
何故俺は、首を吊らなければいけないのだったか。
ああ、首を吊らないといけないのか。そうだそうだ忘れてた、今日のうちに首を吊らないといけないな。いやしかし。2日後に小テストがあるしなぁ。それにまず怖い思いをした静流さんを落ち着かせて、縁ちゃんを無事に家に送り届けて。それが済んでから吊ろう。そうするか…。彼女はゆるりと腕の力を緩めて、くたりと座り込んだ。
「あーあ…どうしよう。この子を病院に…というのも加わったなぁ。今日中に吊れるかな…」
「あともう一つ、用事があるでしょう?」
妙に張りのある声に振り向いた。
「―――ついてきてたのか」
飛縁魔が、軽く息を切らせて背後に立っていた。
「用事?」
「そう」
妖艶な視線に射抜かれるように、頭の芯がくらりと揺れた。
「…それ、やめてくれる」
「やめない。やめてほしかったら、私のお願い聞いてくれる?」
あの木の枝、切ってくれる?飛縁魔は俺の目を覗き込んで微笑んだ。あぁ…面倒だなぁ。俺は再び鎌鼬の渦に命じた。やがて俺たちの頭上に枝を張っていた太い枝が、鈍い音を立てて落ちて来た。
―――は。
急に夢から引きずり出されたような感覚と共に、一瞬前まで俺が当然のように考えていた事が、鋭い恐怖となって後頭に突き刺さった。
俺は一体、何をする気だった…!?
「貸し、もう一つね♪」
飛縁魔が小さく呟いて、くすくす笑った。息を切らせて駆けて来た縁ちゃんが俺たちと転がる枝を見比べながら、え?なに?これなに?と叫んでいる。…本当だよ。何だよこれ。
「青島さん…!!」
目に涙をいっぱい溜めた静流さ
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