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霊群の杜
縊鬼
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俺に許されるのはただ一言だった。
「でも本当に邪魔にしかならないぞ。どこに行くんだ」
飛縁魔は墨を溶かしたような漆黒の瞳を細め、薔薇のような唇を動かした。
「―――結貴くんの、彼女を見に。ね?」


くらり、と眩暈が襲ってきた。




何の話だそんなの居ない、絶対何かの誤解だし相手の方にも迷惑だからと、引き回されながら何度も訴えた。だが二人は体中に好奇心を漲らせっぱなしの顔で聞く耳持たない。
「本当に、全く身に覚えが無いんだが!?その話、何処ソース!?」
「んん、お兄ちゃんだよ?」
「奉が!?なんでそんな出鱈目を!?」
「昨日ね、ついにお兄ちゃんを追い詰めたの」
「追い詰め…」
縁ちゃんの話を要約するとこうだ。
テストが終わって好き放題引き籠るうちに、ぼっさぼさに伸びまくった奉の髪を、今日こそアシンメトリ(?)にカットしてやろうと鋏を持って侵入すると、幸運にも奉は読書に夢中で近づいても気が付かず、取り押さえるところまで成功。しかし鋏を入れる直前になって、奉が興味深いことを口走り始めた。


『いいのか、こんな事をして。結貴の新しい彼女の情報を教えてやろうというのに』


「…っていうから、縄をといてー」
「縛り上げたの!?たかが髪のために!?」
「だって絶対逃げられるもん」
何だこの兄妹。
「交換条件として聞き出したのだよ、ワトソン君!」
「そんな武闘派のホームズ聞いた事ないし、推理じゃなくて尋問だし、しかもガセ情報だし」
つまり俺は妹のアシンメトリ攻撃から逃れる為に、奉に売られたのか。…あいつめ、今度会ったら前髪パッツンの上に襟足は長く残して辱めてやる。
「誤魔化しても駄目だよ。エマさんだって『心当たり』があるって云ってたもん!」
「エマさんが俺の何を知ってるの!?」
「…知ってるかもよ」
君も知らない、色んなことをね。と呟いて、飛縁魔は俺の反論を流し目で制した。…美人は狡い。



「例えば…誰も知らない、首吊りの木の事とか」



ぎくり、と両肩を掴みあげられたような衝撃が走った。縁ちゃんも戸惑うように『え、首吊り…?』と呟いている。
「…学内で起きた首吊り事件のことを云っているのか?」
馬鹿馬鹿しい。一瞬ぎくりとしかけたが、すぐに思い直した。
「特定の木で、連続して首吊りが起こればそれは首吊りの木なんだろ。でもあの木で首吊りが起こったのは今回が初めてだ」
「……だから?」
「つまりあれは『偶々首吊りがあった木』であって『首吊りの木』じゃないんだよ」
「初めてじゃないのよ」
かたり、と小さな音を立てて、飛縁魔は食器を下げ台に置いた。
「嘘だ、聞いた事がない」
「だからよ。誰も、知らないの」
上目遣いに俺の目を覗き込み、踵を返した。え、なになに首吊
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