縊鬼
[2/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
が初めて」
んふ、と小さく笑ってイチゴミルクのブリックパックを畳み始めた。…中学校の給食を思い出す。
「ねね、大丈夫かな?今日のコーデ、変じゃない?」
ちょっとそわそわしながら、縁ちゃんが立ち上がってくるりと回った。落ち着いた黒のピーコートも、芥子色のミニスカートも、踵が高めのブーツも、いつものスポーティな縁ちゃんにしては少し大人っぽい感じがする。嫌いじゃない。むしろすごくいいが…。
「…踵、高すぎないか?えっと…エマさんと縁ちゃんは違うんだから、そんな無理して合わせなくても」
「え?え?…やっぱちょっと変?」
「いやいやそんなことない!そうじゃなくて…歩きにくくないかな、と」
「馬鹿ねぇ。そういう時は『可愛いよ』って云うものなの」
柔らかい指が肩に触れた。くらり、と頭の芯が揺れる。この感覚は。
「あ、エマさん!」
縁ちゃんが手を振る。俺は触れられただけで少し具合が悪くなるというのに、この子には何も影響はないのだろうか。
「いいわね、そのスカートの色。よく見つけたね」
「へへー、ちょっと遠征したよー」
巻き毛をかるく揺らして嫣然と微笑む飛縁魔に、縁ちゃんが駆け寄った。
「エマさんは食券買った??」
「私はいいわ。おいしくないもの」
「だよねー」
…時間つぶし、という俺の役目は終わったわけだ。これから二人でオシャレカフェでも何でも行ってお口直しでもするがいい。…ったく、食わないなら何で学食で待ち合わせするのだ。
「じゃ、俺はここで」
二人分の食器を持って立ち上がると、飛縁魔は俺の手から食器を一人分取った。
「…もう帰りでしょ。一緒しない?」
「え?でも…」
俺はこの二人に囲まれて、微妙な居心地の悪さを感じていた。飛縁魔が苦手、とかそういう事じゃない。どちらか一方と二人きりでデートならばむしろウェルカムなのだ。だが午後から女子が二人でお出かけというとほぼ間違いなく『オシャレカフェでガールズトーク』『街でショッピング(2時間超)』の二択。ガールズトークに男一人で巻き込まれるのも、何が目的なのか分からん上に、永遠に続くのかと思われるウインドウショッピングに付き合わされるのも、等しく地獄だ。
「あー、感じ悪い。露骨にイヤな顔!」
縁ちゃんがぷぅ、と頬を膨らませる。
「だ、だって邪魔だろ?俺が行っても」
この面倒事から何とか逃れようと色々云い募ろうとすると、飛縁魔が俺の口元にぴたりと指をあてた。
「来 な さ い ?」
それは有無を云わせぬ妖気を帯びた口調だった。同時に『借りを返せ』と促されているような気配すら感じた。…つい一月前、俺が奉を鎌鼬で切り裂いた日。奉の命を救われたその借りを、俺はまだ返していない。
つまり飛縁魔に命令されれば、今の俺は傀儡同然なのだ。
「………はい」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ