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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九話 獅子搏兎
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全軍の統制が取れなくなる。そうなれば各艦隊は独自の判断で動かざるを得ません。つまり、階級ではなく実力が物を言う事になる」
ヤン中佐は沈黙しています。そしてヴァレンシュタイン少佐をじっと見詰めている。少佐もその視線を正面から受け止めている。やがてヴァレンシュタイン少佐が話し始めました。
「ヤン中佐、私は亡命者です。亡命者は捕虜になる事は出来ません。帝国にとって亡命者は裏切り者なんです。捕まれば嬲り殺しにされるでしょう。私だけじゃありません。そこに居るミハマ中尉も悲惨な事になります」
ヤン中佐とヴァレンシュタイン少佐の視線が私に向けられました。私? それは捕虜にはなりたくないけど……。
「帝国には捕虜収容所などというものは有りません。あるのは矯正区ですが殆ど捕虜を野放しです。規律も規制も無い、そんなところに若い女性を送ればどうなるか……。或いはどこかの貴族が彼女を慰み者にするかもしれない。飽きれば何処かに売られるでしょうね」
「売られる?」
思わず問い返した私にヴァレンシュタイン少佐が頷きました。
「帝国には同盟に家族を殺された人間が腐るほど居るんです。彼らが貴女を買った後どうするか……」
急に怖くなりました。ヴァレンシュタイン少佐は哀れむような目で私を見ています。そしてヤン中佐は私とは視線を合わせようとはしません。見かねたのでしょうか、ヴァレンシュタイン少佐が言葉をかけてきました。
「勝てば問題はありません。勝てば……」
そう言って少佐はヤン中佐を見ました。私もつられてヤン中佐に視線を向けます。縋るよう視線だったかもしれません。ヤン中佐がほっと溜息を吐きました。
「貴官を敵にはしたくないな、ヴァレンシュタイン少佐」
「私は敵じゃありません。前から言っています」
「そうだね……。貴官の考えは理解した、出来る限りの事はしよう」
「御願いします」
ヤン中佐が会議室を出て行きました。二人とも握手も敬礼もしません。ヤン中佐は複雑な表情で部屋を出て行き、ヴァレンシュタイン少佐は無表情に中佐を見送りました。
“貴官を敵にはしたくないな”、ヤン中佐の言葉が耳に蘇りました。私もそう思います、ヴァレンシュタイン少佐を敵に回したくは無い……。ヴァンフリート4=2に行く事が決まったのは昨日でした。
それなのに少佐は僅か二日で戦争の展開をシミュレートしています。かなり精密に予測しているのは間違いないでしょう。そうでもなければこれだけの手を打てるわけがありません。おそらく宇宙艦隊の総司令部でも少佐ほどヴァンフリートで起きる戦闘をシミュレートしている参謀は居ないと思います。
物資、武器、部隊……。それらの手配をすると共にヤン中佐を第五艦隊に配属しました。そして帝国軍の将官リスト……。ヴァレンシュタイン少佐は
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