二章 追いつかない進化 - 飽食の町マーシア -
第18話 町長
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「なるほど。ないかも」
「冬眠するために食い溜めする種を除けば、野生動物が肥満だらけになることは基本的にないんだ」
「ふむ……それは、自然界の法則というものですか」
「はい。自然界では食べ物が余るということがありません。どの種も生きるためのギリギリの餌しか手にすることはできないんです。もし餌が豊富なら個体数が増え、また飢餓ギリギリのところで落ち着くようになっています」
――この町は歪んでいる。
歪んでいるということは、どんなことが起きても不思議ではない。
そうシドウは考えていた。
「明日、町長に何か問題が起きていないのか聞いてみるのも良いかもしれません。できそうであれば提言もしてみるとよいでしょう」
「そうですね。町にとっては余計なお世話かもしれませんが、そうしてみます」
一階の冒険者ギルドにもすでに挨拶を済ませていたが、上級冒険者が町にやってくるのは珍しいのだろう。ギルド長から「ぜひ町長に挨拶を」と言われていた。
明日の午前中に面会予定となっている。
「でも不便だね。食べ過ぎると全部体のお肉になっちゃうなんて。捨てられればいいのに」
そうなったら好きなだけ食べることができる! とティアは言わんばかりである。
「どの生物も、栄養を捨てる仕組みを持つようには進化していないよ。捨てる必要がなかったんだから。だから摂った栄養は体に蓄積されて、食べれば食べただけ太ってしまうんだ」
「私はそのあたりの分野に疎いですが……。この町のように人口の増加以上の食糧供給があって、食べ物が余る状態が続けば、そのうち栄養を捨てられるように進化するということはないのですか?」
「……あと何万年か、何十万年か……何百万年かすれば、進化するかもしれません」
「はは。さすがにそれは遠すぎますね」
* * *
翌日。
「ようこそいらっしゃいました。私がこの町の長です」
「……!」
応接室の扉から現れたその町長の姿に、ソファーから立ち上がっていた三人は一様に驚いた。
おそらく二十〜三十代であろうという若々しい顔に対して、ではない。やはりお腹が出て太ってしまっていることに対して、でもない。
町長には、足がなかったのだ。
木製の車椅子姿。両足とも膝から下は存在しなかった。
やはり肥満の若い職員が後ろを押し、車いすのままテーブルにつく。
「このような姿で申し訳ありません」
「あ、いえ。こちらこそ驚いてしまい申し訳ありません」
シドウは慌てて陳謝し、礼をすると三人はソファーに腰掛けた。
「まだお若いのに上級冒険者であるとお聞きしました。立派なものですね」
やや吊り上り気味の目、中央で横分けされた髪、綺麗に剃られたヒゲ。そし
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