巻ノ八十二 川の仕掛けその四
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「このまま敵を足止めしてな」
「動かさぬのですな」
「我等はそうする」
「そうすればですな」
「内府殿の戦もわからなくなると思う」
「思う、ですか」
「既に治部殿の方で怪しい御仁がおる」
こう言うのだった。
「それも幾人かな」
「まさか」
「いや、そのまさかじゃ」
こう幸村に言った。
「今も各地に忍達を放っておるが」
「あの者達から聞くと」
「金吾殿や毛利家の吉川殿等がな」
「既にですか」
「内府殿と通じているやも知れぬ」
その彼等がというのだ。
「だからじゃ」
「あちらの戦は、ですか」
「わからぬやも知れぬ」
「そうですか」
「普通に見れば互角じゃ」
家康と石田、それぞれが率いている兵達はというのだ。
「数はな、しかしな」
「寝返りや戦わぬ者がいれば」
「そこで違う」
そうなるというのだ。
「内府殿が勝つやも知れぬ」
「そして内府殿が勝たれればな」
「一気にですな」
「大坂に入られるであろう」
「そうなれば」
「戦は終わりじゃ」
昌幸は幸村に言った。
「その時にな」
「では我等がここで中納言殿の軍勢を引き付けても」
「意味がない」
まさにというのだ。
「負けじゃ、我等の」
「そうなりますな」
「しかしな」
「それでもですか」
「我等が生き残る策は用意してある」
昌幸は敗れた先にことも考えていた、そうしてそのうえでだった。幸村に対してこうしたことも言ったのだった。
「あれをな」
「ではそうなっても」
「よい、元より我等が勝てばな」
「その時は兄上を」
「そう考えておったからな」
だからだというのだ。
「よい」
「そうでしたな」
「ではよいな」
「はい、何があっても生き残りましょう」
「源三郎もわしもな、そして源次郎」
昌幸は幸村にここでこうしたことを言った。
「御主は武士として生きたいな」
「はい」
「では時として待つこともわかっておれ」
「待つこともですか」
「そうじゃ」
それもというのだ。
「わかっておれ」
「そうですか」
「うむ、御主の顔の相を見るとじゃ」
実際に幸村のその顔を見て話す。
「御主が目指す、歩く道で大きなことをする」
「だからですか」
「その時が来るまで待つこともな」
「覚えておくことですか」
「そうじゃ、特にじゃ」
昌幸はさらに言った。
「耐えねばならぬ時はじゃ」
「耐えるべきですか」
「御主はそれをわかっているが」
「それでもですな」
「念を押しておく、待つべき時は待て」
こう言うのだった、我が子に。
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