巻ノ八十二 川の仕掛けその三
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だがその時だった、何と。
川の流れが急になった、しかも水の量も違う。これまでとは全く別もののその勢いと量の水によってだった。
川を渡っていた兵達が断末魔の声と共に流されていく、秀忠はそれを見て唖然となった。
「な、今度は何じゃ」
「まさかこれは」
「水攻めですか」
「真田が川の水をせき止めていて」
「それを流したのでしょうか」
「そういえば妙にじゃ」
ここで秀忠もはっとなった。
「川の水の量が少なかった」
「はい、勢いもです」
「川の幅にしては少なかったです」
「ではこれは」
「やはり」
「また真田の策か」
秀忠はこのことを認めるしかなかった。
「何という者達じゃ」
「ここはどうされますか」
「それで」
「川の流れが弱るまで渡るな」
すぐにだ、秀忠は全軍に命じた。
「そして川が元に戻ってからじゃ」
「それからですな」
「あらためて渡る」
「そうしますか」
「まだ渡っておらぬ者達は守りを固めよ」
こうも命じた。
「こうした時にこそ来るぞ」
「ですな、それでは」
「今は守りを固め」
「そして川の流れが元に戻れば」
「その時に」
「渡るぞ、しかし真田め」
秀忠の顔が変わった、今度は忌々しげな表情で歯噛みしていた。
「ここまでやってくれるとはな」
「想像以上でしたな」
「まさに」
「うむ、このことは忘れぬ」
こうも言った。
「決してな」
だがそう言っても何もならなかった、彼は残った軍勢が川を渡ってから全軍を集結させ陣を組みなおした。そしてその夜は守りを固めさせて動かなかった。
昌幸は城でその報を聞いた、そのうえで笑みを浮かべて言った。
「全て上手くいったわ」
「左様ですな」
幸村も城に戻っていて父に応えた。
「今日は」
「うむ、そして明日からはな」
「敵は今日の様にはですな」
「攻めて来ぬ」
こう幸村に言った。
「だからな」
「はい、こちらも今日の様な攻めはですな」
「せぬ、守りを固めておるわ」
徳川方もというのだ。
「だからな」
「積極的には攻めず」
「守りに専念する、しかし相手に隙があればな」
「その時はですな」
「御主が攻めよ」
「では城の外にですか」
「おれ、よいな」
「わかり申した」
幸村は父の命に確かな声で応えた。
「そうさせてもらいます」
「十勇士達と共にな」
「その様に」
「それでじゃ」
昌幸はさらに話した。
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