巻ノ八十二 川の仕掛けその一
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巻ノ八十二 川の仕掛け
昌幸は徳川方の軍勢が城から逃げ出し榊原が彼を逃がす為に自ら後詰となり戦っているのを城の櫓から見た。そのうえでこう家臣達に言った。
「流石は徳川四天王のお一人じゃな」
「はい、見事な戦ぶりです」
「隙がありませぬ」
「ここは下手に攻められませぬな」
「攻めては返り討ちに遭いますな」
「うむ、後詰は攻めぬ」
榊原が率いる彼等はというのだ。
「そうする、しかしな」
「それでもですな」
「策はある」
「そうなのですな」
「そうじゃ、後詰はあえて攻めぬが」
しかしというのだ。
「よいな」
「はい、敵は逃げております」
「そのまま算を乱して」
「それではですな」
「また源次郎がやってくれる」
幸村、城の外で戦う彼がというのだ。
「それでまた敵に一泡吹かせようぞ」
「わかり申した」
「それではです」
「まずは敵を逃がし」
「そのうえで」
「敵が安心したところでじゃ」
まさにそこでというのだ。
「源次郎がやってくれるわ」
「ですな、源次郎様ならばです」
「必ずやってくれます」
「では後はですな」
「あの方にお任せしますか」
「そうするとしよう」
こう言ってだ、昌幸は榊原の後詰にはあえて積極的に攻めなかった。そうして徳川方の軍勢を逃がさせた。後は幸村に任せることにして。
秀忠は己の軍勢を必死に逃がさせた、自ら馬に乗ったうえで彼等に声をかけた。
「急げ、味方を見捨てずにじゃ」
「はい、何とかですな」
「今は」
「退くのじゃ、今は死ぬべき時ではない」
だからこそというのだ。
「逃げよ、そして傷付いた者は見捨てるでない」
「わかっております」
「味方を見捨てては武士の恥」
「その様なことはしませぬ」
「そのことは」
「そうせよ、川があるがな」
秀忠はこのことにも言及した。
「踏ん張りじゃ」
「渡ってですな」
「難を逃れるのですな」
「そうせよ」
絶対にというのだ。
「よいな」
「確かあの川の名は神川でした」
旗本の一人が秀忠に言ってきた。
「この辺りの川は厄介です」
「前の戦の時もじゃな」
「我等は痛い目に遭っております」
「その話は彦左衛門から聞いた」
大久保、その彼からだというのだ。
「随分やられたそうじゃな」
「はい、ですから」
「敵が攻めてきてもか」
「対することが出来る様にすべきかと」
「わかった」
秀忠は旗本のその言葉に頷いた。
「それではな」
「備えをしたうえで」
「川を渡ろうぞ」
そこをというのだ、こう話してだった。秀忠は兵を励ましつつ逃がした。兵達はその彼の心を知り有り難く思いつつだった。
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