二章 追いつかない進化 - 飽食の町マーシア -
第16話 奇妙な同乗者
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
きちんと整備されている街道。馬車の揺れはほとんどない。
そして左右どちらを見ても、緑に富んだ活力のある景色が流れていた。
シドウとティアが乗っている馬車は、六人乗りだった。
街中を走る乗合馬車のような、三人掛けの席が向かい合うような型ではない。二人掛けの席が、進行方向に向かって三つ並んでいた。
二人はその真ん中の席に座っている。
進行方向に向かって、右がシドウ、左側がティアだ。
「シドウ。まだ聞いてなかったけど、次に行くのはどこの町なの?」
そうティアに言われて、シドウはまだ行き先を言っていなかったことに気付いた。
すでに出発してから結構な時間が経っているのに、である。
「ごめん、言うの忘れてた……。次はマーシアという町に行くよ」
「それ、どのへんなの?」
シドウは地図を広げた。
そして自身の指で示そうと思ったのだが、別の指が後ろから伸びてきた。
「ここですよ、ティアさん」
白く綺麗な指と、丁寧な発声。
それは、わずかに癖のある赤毛と濃い碧眼を持つ、美形の青年のものだった。
彼は二人の後ろ――つまり一番後ろの席――に一人で乗っていた乗客である。黒を基調とした服を着ており、その上には、装飾は控えめだが生地のしっかりした、灰色のマントを着けていた。
この青年、名はアランという。年齢は二十四歳。
出発直後、ちょうどシドウとティアの会話が途絶えたタイミングで、勝手に自己紹介をしてきていた。
その後も頻繁に絡んできていたので、今いきなり彼が会話に入り込んできても、二人とも驚きはしなかった。
「あら、結構遠い」
「はい。しかもマーシア周辺は街道が整備されていません。駅馬車で直接行くことはできないので、一番近くの町から歩いていくことになります。一番近くといっても、丸一日は歩きますがね」
「へえ、よく知ってるのね」
皮肉めいた響きはなく、本当に感心したようにティアがそう言う。
シドウとしては、この『丸一日歩く』について、先に同意を得ていなかったのはまずいと思ったのだが、ティアは特にそこを気にする様子はない。
師匠が武闘家であり、そのもとでずっと修業を積んでいた彼女にとっては、大した距離ではないのだ。
「私も目的地は一緒ですから。それにティアさん、すでに申しましたとおり、私は世界有数の魔法使いです。魔法使いにとって知識は何よりも大切な財産です。どんなことでも、一度覚えたらそう簡単には忘れません」
「……自分で世界有数とか言っちゃうのはどうなの?」
「事実ですからね」
アランは穏やかに微笑んでそう言うと、シドウの首に腕を回した。後ろから頭を抱え込み、左手で亜麻色の髪をいじり始める。
「ふーん。で、その世界有数の魔法使いは
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ