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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 42
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で仕方なく熟していく。そういう環境を強いられてきた。だが、それでは「国」を保つ為の役割分担が満足に機能せず、社会全体を通した運営の効率も悪くなる一方。滞った政治・経済では、各業界に「商品の質を向上させたい」って気概を持たせるのも難しい。つまり、国としての品位もいずれ内側から腐って落ちる。他国に付け入る隙を与える結果になるんだ。いいか? よく聴け、莫迦娘。あらゆる分野で見識を広め、何事にも全力で取り組み、自身にできる事とできない事を体感し、様々な経験を積み重ねて己の分を弁え、自身に見合った力を収得し、他人を知り、自己と他人の違いを見極め、自身の目的と願いを探求し、個の限界と多との協力・切磋琢磨を繰り返しながら、理想を現実に変える術を学ぶ。そうして得た総てを抱えて大人の枠に加わり、王族だけでも貴族だけでもできない事を自身の役割として担う。それこそが「育成期間の保障」と引き換えに未成年へ課した教育の意味。未来のアルスエルナ王国を形成する子供達に与えた、人間として生きる為の術だ。お前はまだ自分の適性に気付いただけの、何の力も持たない役立たず。お前を育てている時間への対価を払えない未熟者。だからこそ、残された未成年の時分を最大限に活用し、お前に適した場所で多くを学び、お前が得た力で願いを実現して来い。ハウィス達を護れるかどうかは、これからのお前次第だ」
 冗談を一切含まない真摯な眼差しが、先程イオーネに遮られた王子の言葉を耳奥に再生させる。
 『お前達を優先に助け舟を出せば、違う所で不満が飛び出す。その全てに応えられる力なんぞ、王族にも貴族にも無いんだよ。だから』
 『お前達はお前達にできる事を。民にしかできない事を、責任と誇りを持って果たしてくれ』
 『「国」とは、施政者が外形を守り、民が内側から支えて初めて成り立つ物』
 『剣や盾をハリボテにするかどうかは、中身であるお前達次第だ』
 王子が言いたい事は何となく解る、気はする。
 でも。
 「……アリア信仰で学んだって、もう……」
 「少なくとも、ハウィスさんの力にはなれますよ。貴女はリアメルティ伯爵の正統な後継者ですからね」
 「…………は?」
 伯爵の後継者? その話は名前を返上した時点で無くなったんじゃないのか。
 不可解なアーレストの発言に目を瞬かせると、彼はにーっこり微笑んだ。


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