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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 42
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そうになる。
 (普通じゃない……? 莫迦な事を。私が! そうさせたんでしょうが……っ!!)
 ああ、けれど。
 これが誰かを……国を守る騎士や領主、王族達の例外無き手段だとしたら。
 領主など、最初からミートリッテには務められない。
 こんな遣り方、ミートリッテには絶対できない。誰かに同じ事をされたとして、犠牲を回避する方法も思い付かない。
 覚悟? 決意? そんなもの、真っ白な紙切れ一枚より役に立たなかった。
 (……剣にも盾にも成り得ない以上……私はもう、ハウィスの傍には居られないんだ……)
 騒動の渦中に居たミートリッテはバーデル軍にも顔が知れ渡り、領主の後継者でなくなれば、戦えない権力者の扱いでアルスエルナの弱点となる。事態が鎮静化した後、国境と接するネアウィック村に、帰って良い家は無い。アルフィンと談笑したり、ピッシュの農園で働いたり、ハウィスと帰宅の挨拶を交わすことも無い。
 これからずっと、知らない場所で、知らない物や知らない人達を助ける重責に囲まれて、一人きり。
 それがミートリッテに与えられた、罰。
 「……人には適性という物があります」
 急な虚脱感に襲われて俯いたミートリッテに、いつの間にか気絶していたイオーネを両腕に抱えて立つアーレストが微笑みかける。
 「しかし、生まれた瞬間からそれを自覚している者は存在しません。人間はそれぞれ、見て、触れて、聴いて、感じて、自分に無い思想や感覚や知識を時には受け入れ、時には盛大に反発し、競合し、迷い道を倒れるほどにひたすら走り続けて。自信を持って間違えながら、自信を失っても折れそうな弱さを律しながら。そうやって月日と共に己の限界を、己の傾向を、己の形を知るのです。貴女は多くの過ちを犯しましたが、大切な人を護りたいという適性には気付けたでしょう?」
 「……思うだけじゃ、何の役にも立てません」
 「その通り。どんな人間でも、頭の中でだけなら理想の自分でいられるだろうよ。完全無欠な人助けで死んだ後まで感謝され続けるも良し。最強無敵の武力で世界を征服するも良し。総ては脳の持ち主が思い描くままだ。けど、理想の殻を破れない人間は所詮、誰にとっても……自身にとっても、無い物強請りの足手纏いでしかない。当然だろ? 頭の中が煮詰まってても、実際には空白な時間が流れているだけで、何の結果も残せてないんだから。現代のアルスエルナ国民の大半がそうであるように、な」
 王子に前髪をわしゃわしゃと掻き混ぜられて、危うく前のめりに転けそうになる。
 何をするのかと恨みがましい視線を送れば、思い掛けず真剣な表情とぶつかった。
 「これまでの民は生きるだけで精一杯だった。自分自身を顧みる余裕も無く、周囲の状況を見渡す冷静さも無く、上位の者に与えられた仕事をぶつくさ文句言いながら投げ遣りな思い
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