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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 42
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んなモンか。此処まで噛み砕けば解るだろ?」
 「……お父様……」
 本人だからこそ知る明らかな嘘と真実が混じった『筋書き』に、ミートリッテの顔色が消え失せた。
 (これは、表向きの「理由」だ。バーデル国内で商人を殺していた集団が突然国境を越えて来たのは、ネアウィック村にアルスエルナの王族と縁ある一般民が居ると知ったから。私を大森林に誘い出したのも、私が高位の職に招かれている情報を掴み、手が届く内に始末しようと考えた為。今度は勝てるかも知れない戦争を再発させる為に、私を殺してアルスエルナを挑発し、バーデルで燻るアルスエルナへの敵意を刺激しようとした。山荘が焼けたのは、追手を取り逃した警備隊の所為。本当に山荘を燃やしたのは私だけど、アルスエルナの騎士に護られている王族縁の者がバーデルの所有物に火を付けた……なんて醜聞、公表できる訳がない!)
 「警備隊を、殺したのは……っ」
 「お前はイオーネを殺さない。後々のアルスエルナにとって厄介な火種になると判っていても、殺せなかった。必要な時に必要な決断を下せない領主など、この国には要らない。そういう事だ」
 村へ帰りたくて火を放った。近くに居る誰かが直ぐになんとかしてくれると思って。
 でも、警備隊は……傍に居た王族付きの騎士達は、「山荘の内側から」昇った炎をどう解釈しただろうか。アルスエルナ人がバーデル国内で起こした小火騒ぎは、果たしてアルスエルナにとって良い方向に働くだろうか。
 (二国の険悪な関係上、良い方向に転がる筈がない。どんな状況でも、実害を齎した側の弱味に変換されるのが当たり前だ)
 生じてしまった弱味を握り潰す手段は、限られている。
 (『口封じ』だ。私が……私の軽はずみな行動が、ベルヘンス卿達に、バーデルの警備隊を……殺させた)
 肩越しに覗き見たベルヘンス卿は、静かな目で成り行きを見守っている。
 軽口を叩いたり、ちょっとからかってみたりもしたあの男性は、平然と剣を振るい、人を殺す騎士。殺した後でも感情を失わない、凶器の使い手。
 (……っ! ……最低……)
 今更ながら、ベルヘンス卿の……静かに佇む騎士の姿に背筋が凍る。足がみっともなくガタガタと震え出した。
 (最低だ、私。あの人達を恐いと思う資格なんか、私には無いのに)
 ミートリッテが山荘を燃やすまで、警備隊員は確かにアルスエルナの協力者だったに違いない。
 でも、アルスエルナを貶める材料を見てしまったから。たった一つ、見つけてしまったから。
 何かをする前に、殺された。
 害になる「可能性」で生まれた一方的な裏切り。あまりにも身勝手すぎる理由。既に物騒とかいう段階の話じゃない。
 敵じゃなかった人を殺しても普通でいられる「普通じゃない何か」が恐ろしくて、握っている短剣を思いっ切り遠くへ放り投げてしまい
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