66.最終地獄・蹈節死界
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(ありがと)う」
俺は、そのとき/ /を超えた。
黒竜が気付いた時には、『焼喪天』は空間が捻じれるような力を受けて霧散した。かちん、とオーネストが刀を鞘に納めるのが見えた。自分が下に落ちていることに気付いた。そして――。
自らの胴と羽根が両断されていることに、やっと気づいた。
= =
「俺には父親がいたんだ」
「格好いい人だと思ってた。世界最強だとも信じてた」
「剣も教えてもらったし、冒険者としてのイロハとか、居合拳とか。本当に色々」
「でも、時々あの人を見る目が妙に怖くて、子供心には理由が全然……」
「10歳の時だった。誕生日の日――親父は俺に剣をくれた」
「冒険者登録もしてない俺を、親父はこっそりダンジョンに連れて行ってくれるって言った」
「喜んだよ、正直不安よりもそっちが大きかった」
「親父が魔物を切り裂いている所は、子供心ながら改めて父親の凄さを知れた」
「餓鬼だったから、何層まで降りたたかは覚えてないな」
「ただ、確か10層前後ってな所だ。そんなに深くはなかった」
「魔物の群れのいる洞穴みたいな空間を見せてもらった時な」
「突き落されて、洞穴に落とされた」
「訳が分からなかった」
「助けを求めたけど、自力で上がって来いって、まるで一人じゃ頭を洗えない子供に言うように……」
「今でもあれが何を考えてたのかなんて全ては分からない。俺の知らない所で死んだから」
「でも分かることはあるよ。最期に見た顔。俺を見下ろす顔が――」
「嗤ってたよ。デッサンの狂った絵みたいな顔だった」
「憎しみとか、嘲りとか、嫉妬とか――そんな俺の知らない感情を全部集めて……」
「汚泥と一緒にこねくり回して、無理矢理人間の形にしたような感情だった」
「俺はその時、初めて自分が親父に心底憎まれていたことに気付いたんだ」
「以来、ずっと努めて居合は使わなかった。明確な理由なんて本当は……」
「俺も分からないんだ。憎んでるのか、怖かったのか、あの瞬間をなかったことにしたかったのか」
「ただ、その訳の分からない感情を、今日、乗り越えたと思う」
「…………………」
「こいつ、貰っていくぞ」
「………それと、だ」
「貸しにしとく」
「じゃあな」
「下らない話に付き合ってくれて、感謝するよ」
ダンジョン第50層に存在する宿屋――その外にあるベンチの上で、長身の男が寝転がっていた。物取りも恐れず呑気に眠るその男は、やがて寝息を止めて起き上がり、枕元に置いてあった鞄を抱えてベンチの端を開ける。そこに、上半身が
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