66.最終地獄・蹈節死界
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生命を絞り出す愚者の号哭。自分が自分と向き合う事をしなかったから、本当はこんなにも痛いのだと今の今まで知らなかった。
だから、知れてよかった。これが痛み、これが前に進むということ。この痛みが、止まった俺の時間の針に、そっと指をかける。緩んだばねを螺子で回し、再び鐘の音を響かせる。
「ハ……ッ、ハァっ。貴様、まだ加速するの、かぁ……!!」
俺の斬撃の量を捌ききれなくなった黒竜が、全身に切り傷を浴びながら笑う。既にこちらの斬撃には黒竜を本気で切り裂いた威力が乗っているというのに、それに対応する黒竜も加速度的に深化している。神の血を持つとはいえ所詮は人間である俺と、人間ではない魔物の黒竜。ここで仕留めきれなければ、いつか俺は奴の可能性に押し潰されるだろう。
「ならばァ!!今度はこれも試してやろうッ!!貴様とあの男を殺す為に用意したにも関わらず、獣に邪魔された切り札をォッ!!」
瞬間、黒竜の左目が深紅の輝きを放ち、その内から目さえも灰塵に帰すほどに膨大な熱量が権限を始める。結局不発に終わった切り札の正体。それは、成程確かに――あの時に使われていれば、絶対に死んでいたであろう「切り札」だった。魔石とは違う魔力蓄積機関と化していた黒竜の欠けた眼球から、生命力そのものを絞り出すような莫大なエネルギーが抽出される。それは、使い方を一歩掛け違えば、このダンジョンという広大な空間の全てを焼き尽くす地上の太陽となりうる力。
「統てを喰らえ、我が業炎――『焼喪天』ッ!!!」
眼球の目の前で膨れ上がった巨大な熱量の球が圧縮されるようにギュルリと縮み、黒竜はその血に塗れた両腕でそれを握り潰した。
瞬間、莫大な熱量が腕の隙間より無数に分裂して空間を埋め尽くす。その光景は、空に巨大な彼岸花が咲いたかのように美しく、そして残酷な力。一筋の光は二筋に分裂し、四筋、八筋、十六筋にと倍々に分裂する。分裂した炎の矢の一つが第60層の壁を掠り、掠った場所が飴細工のようにどろりと融け落ちた。
一撃を受け間違えたら、などという問題ではない。近づいただけで万象を焼く魔力の炎が無尽に分裂し、未来を食い潰していく。きっとこの街の全ての冒険者が、絶望、或いは迫りくる死と表現するであろう圧倒的な破壊だった。
だが、俺はもう決めていたし、確信していた。
「有難う」
「……ッ!?」
「お前の……お前らのおかげで、8年もかかった反抗期が終わりそうだ。だから――」
息を吐き、吸い、刀を鞘に納め、俺は感謝する。
憎悪と虚しさの記憶、或いは愛憎の記憶。
俺はそれが嫌いで、それでも忘れられなくて、余計に苦しんで。
でも、今こうして自分に向き合えるというのならば、大丈夫な気がした。
「有難
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