66.最終地獄・蹈節死界
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スの連撃、どれもが殺意の籠らぬ無邪気な破壊。だからこそ反応するのが余計に困難だが、その一つ一つを呼吸ひとつ乱さず凌ぎ、余った時間に反撃を叩き込む。
時には弾き、逸らし、受け止め、そして二重に斬り、襲いくるありとあらゆる角度、威力の殺撃を真っ向から突破する。次第に人間の肉体と魔物のパーツの融合に慣れ始めた黒竜は、背に4枚の翼を展開して真空の刃さえ交えた波状広範囲攻撃を仕掛けてくるが、そのすべてを余すことなく認知し、反応し、一切を叩き斬る。
居合とは居ながらにして死合う事。自ら赴かず、迫る全てを受領した上で応報する。故に本来は全ての一撃が後手となる。しかし人間の眼球が捉えた映像と現実に起きる映像にはラグが存在し、物事に反応した人間が行動を起こすまでの間にも僅かなラグが存在する。人は常に一瞬遅れた世界で生きている。
では、何故遅れた世界の中で人間は不自由なく生きていけるのか。それは先読みをしているからだ。これは何も人間だけの話ではなく、動物や魔物とて似たような事をしている。相手の動きを基に一瞬先、一秒先の動きを先読みし、視覚の認識より早く行動に移すことで予想通りの現実を迎えることが出来る。
だから読む。黒竜の先を只管に読む。一つ斬撃の角度や数を間違えればその瞬間に破綻する攻防の中で、無限の選択肢の中から適切なものを選択し続ける。その先、その先、遥か先。勝利と生存に向けて選び続ける。もっと速く、もっと速く、速く、速く、速く――。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?」
一撃を放つ速度が加速していく。黒竜の縦横無尽な速度と馬鹿力で周囲の岩盤が砕けて溶岩が舞い上がるのに、それ以上に周囲が俺の斬撃によって切り刻まれていく。斬撃は、いつしか嵐になっていた。ゴギャギャギャギャギャッ!!と耳障りな金属音が響く度に、刃がもっとと囁く。
斬撃で防ぐ、返す刃で反撃する。その間の時間を予測し続けるうちに、間の時間にもう一つの攻撃を叩きこむ隙間を見つけた。そこに一撃を挟むともう一つ、更にもう一つと、札を切る速度が破綻していく。1ターンに1回の制約が崩れ、選択肢が雪崩れ込んでくる。
斬撃を放つ腕が熱い。骨が融けて内側から灼かれているようだ。自らの斬撃の速度に肉体が耐えきれていない。再生速度を破壊速度が上回り、血反吐を吐き出す方がまだマシな激痛が腕を中心に全身に広がっていく。
皮膚が破けて血管が弾け、服が紙のように裂けていく。全力と本気を掛け合わせた死に物狂いの攻撃が、捨て身で戦っていた自分が本当は生ぬるい選択肢を選んでいたのだと嘲笑う。本当に――本当に――これはきっとアズの痛みに近い。自分が知り、自分を知り、今と戦う人間の痛みに近い。
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