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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
66.最終地獄・蹈節死界
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嗟に使ってしまいかけるため、その動きをこの体は嫌味なまでによく覚えているのだろう。普段戦いに於いて見せる仁王立ちのような雑把な暴力ではなく、業としての剣技。
 対し、黒竜は無構え。決まった方などもとより持たず、何より人型の体を操るのも初めての黒竜としては、当然といえば当然かもしれない。

 沈黙――ここに三大怪物の一角と『狂闘士』の異名を持つ存在が向かい合っているなどとは考えられないほどの沈黙が、場を支配する。まだ冷めやらぬ溶岩に照らされた二人の口が、動いた。

「行くぞ、人間」
「来い、化物」

 二人の視覚的存在がぶれて消え去り――瞬間、空間を置き去りにするほどの膨大で雑多な不可視の咢がが行き場を失って第60階層に荒れ狂った。



 = =



 武術とは、基本的に心技体の全てが揃ってこそ理想的な形になるとされている。
 武術という極めて洗練されて無駄を省いた形に己を嵌めるには、どうしても自分の我の部分を殺さなければ収まらない。それは人によっては美的感覚のような話であったり、忌避感であったり、そしてオーネストにとっては極めて私的な拒否反応でしかなかった。

 だからこそ、武術には必ずどこかしらに妥協の部分が存在する。武道というルールや変化を拒まれたことへの納得、邪道外道の道の外、武術ではなくそれを使う人間に対する意識。枚挙に暇がないその妥協を振り切ったその先に、極という道が拓ける。

「………完全には反応しきれなかったらしい」
「そのようだな」

 まるで実験結果を共に観察する双子のような二人だが、そこには既に優劣が現れていた。

 黒竜は人間の肉体と竜の特性を駆使した爆発的な加速によって0,01秒にも満たない速度でオーネストの背後に回り込み、大きく身を反らせて破断の砕爪を振った。速度は黒天竜時のトップスピードに匹敵し、込められた力は小手調べとはいえ当たれば衝撃波で人体が赤い霧と化す程のものだった。

 しかし、背後に回り込んだとき、既にオーネストは常軌を逸した反射神経でそれに反応し、爪が振るわれる位置に対して斬撃を放っていた。結果、斬撃と爪が衝突し、猛烈な衝撃波が発生した。黒竜の頑強なる肉体ならばともかく、自分の移動速度で自壊を起こしたオーネストがこれを至近距離で受ければ、肉体のダメージは計り知れない。

 ――至近距離で、『本当にその身に受けたならば』、という過程の話だが。

 衝撃波の晴れた場所にいたのは、半ばまで断たれた爪から血を漏らす黒竜と――まったくの無傷で悠然と佇むオーネストの姿だった。

「我が爪を半ばまで断ち切るとはな。身を引かなければこの腕、持っていかれたか。まだ体の扱いが甘いらしい」
「それはこちらもだ。少しばかり態勢を整えきれなかったせいで刃の入りが浅かった
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