66.最終地獄・蹈節死界
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際程度で煩わしく騒ぐものだ。本当に馬鹿で途方もなく物好きで理解不能で――そして、心底どうして自分にこんな人の繋がりが生まれたのか理解に苦しむ。しかし、人生は思い通りに事を運べないのが当たり前だとするならば、これも俺の歩んだ結果なのだろう。
「アキくん、これを!」
撤退のさなか、立ち止まったリージュが自らの剣を投げて寄越す。くるくると美しい軌道を描いたそれを、あまり意識せず直感的に受け取る。鞘に収まったそれは彼女の愛剣『村雨・御神渡』――元はシユウの作成した、この世界に現存する最高級の刀だ。
「……素手でやるつもりだったんだがな」
「私、信じてるから……また一緒に笑える明日が来るのを信じてるよ、アキくん」
大きな声ではなかったが、やけに耳に残る透明な声を残し、リージュは背を向けて撤退した。俺の剣がない事を気にしての事だろう。レールガンの弾丸となって地面に叩き付けられた挙句に黒竜に喰われたあの直剣を思い出し、あれを打って貰うのも最後にしようか、と思った。一度自ら禁を破ったのだ。今更元通りも馬鹿らしい。
「この手合いの獲物も、使うことはないと思っていたんだがな」
微かな逡巡を押し殺し、刀をベルトに納める。刀――それも日本刀を扱ったことはないが、恐らく『他のどの武器より手に馴染む』だろう。なにせ、『リージュの剣術の基礎は俺が教えたようなもの』なのだから。忌まわしいはずの記憶が巡り巡ってこの手に収まるとは、因果だ。
歪でもある。俺の人間関係は実に混沌とした坩堝だ。しかし、気が付けばそんな連中が好き勝手に叫びながら撤退していくのを薄い笑みで見送っている自分がいて、それに違和感を覚えない。或いは、彼らに毒されてしまったのかもしれない。
バリッ、と空間が固定化されるような緊張感の中で、ゾーンに入ったように自分の意志が剣へと注がれていく。いや、剣と結びついていく。「人とは刃なり」――ひどく錆びれた記憶の中で、それを伝授した男の顔が朧げに脳裏を過った。
俺の今までの剣とは、暴力の延長線上にあるものだ。棍棒と同等だ。繰り出すのは業でもなんでもなく、単なる物理的エネルギーを放つ為の不可欠たり得ない道具を使っている。それは技術の伴わない、剣術とはまるで異なるものだ。
剣術とは剣ありきで、剣を使う人間ありき。すなわち剣と人間を同時進行的に考え、武器と命を直結させることで完成する。それは暴力ではなく一種の儀式であり、その武器を用いて相手を殺す為に不要な過程を殺ぎ落とした究極の結晶だ。
剣術とは己が剣の力を極限まで引き出すことにあり、剣が己を極限まで高める行為。
故に、人とは刃。憑依、或いは融合。転じて、人刃一体。
左手を刀の鞘にかけ、親指で鍔を押し上げる。時折咄
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