第一章 天下統一編
第十三話 人質
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雪が俺に声をかけた。俺は視線を雪に向けた。雪は平伏したままだった。
俺にどういう言い訳をするか興味が湧いた。
「下賤の身で私に直答するとは不届き至極だが特別に許してやろう」
俺は敢えて相手を徴発するような物言いをした。雪は顔を上げると口を開いた。彼女は俺の物言いに感情に流されることは無かった。流石忍者ということか。ここで感情に流されれば柳生宗章に斬り殺されるだけだ。
「小出相模守様、発言をお許しいただき感謝いたします」
雪は俺に丁寧に感謝の言葉を口にした。
「小出相模守様、御家中の陣容を拝見させていただきました。兵の数も多く、多くの家臣をお召し抱えられており志気旺盛でございました」
雪は歯に詰まったような物言いをした。この場合は皮肉では無いだろう。公式は五千石の旗本。実質は一万石の大名。一万石の大名の動員兵力と考えても俺の五百の兵数は過剰だ。二万石の動員兵力になる。傍目からは異常な兵数に見えるだろう。これに与力を加算すると五百五十人位になる。実際、豊臣軍の他の武将達が俺の軍を奇異の視線で見ていることは知っている。誰も口にしない理由は俺が初陣ということもあり張り切っていると勝手に解釈していると俺は結論を出していた。もしくは秀吉の親戚なので軽率なことは言えないと思っているのかもしれない。
「確かに五百は多いな。雪と言ったか?」
「はい」
「私は腹の探りあいは嫌いだ。さっさと聞きたいことを話せ」
俺は雪に命じた。だが、雪は逡巡している様子だった。
俺に直接言えないということは俺の身代についてだろう。
「私が風魔衆を騙し利用して使い捨てにすると思っているのか?」
「滅相もございません」
俺は不愉快そうな表情で雪を睨んだ。そう思われても仕方ない。しかし、そう思ってもそれを表に出し相手の心証を悪くするような相手とは交渉できない。そう考えるならば、相手との交渉の中で真贋を確かめればいい。風魔は交渉毎には使えないと感じた。伊賀上忍である藤林正保とは大違いだ。この交渉能力では家老にするのは心許ないと感じた。
「私は北条征伐後に伊豆国を領有することが約束されている」
雪は俺の言葉に動ずる様子は無かった。言葉では足りないか。
俺は懐から朱印状を取り出し、風魔三人に見えるようにそれを開いて見せた。三人は驚いた表情で朱印状を食い入るように見ていた。秀吉の朱の印判が押され、朱印状には俺に伊豆国七万石を知行すると書かれていた。俺を伊豆国の国主に約束する文書である。俺は三人が文字が読めるということに驚いた。この三人はそこそこの教養はあるということだ。現代の日本では文字の読み書きは当たり前の能力だが、この時代は当たり前じゃない。戦国武将で有名な藤堂高虎は読み書きができなかったくらいだ。だから
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