第一章 天下統一編
第十三話 人質
[3/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
た椀に視線を落とし凝視した。
「殿、どうされたのです。飯に何か入っておりましたか?」
藤林正保が俺に声をかけてきた。
「領民達のことを考えていたのだ」
「領民ですか?」
藤林正保は俺の考えが要領を得ないのか首を傾げていた。他の二人の家老達は箸を止め俺に視線を向けた。
「私は毎日飯を食べられるが領民達はどうしているだろうなと思ったのだ。ここに来るまでも農民達の姿を見てな」
俺は尻すぼみ気味に答えた。
「皆腹を空かせていますからな。領主は領民の腹を膨らせることが役目です」
「そのために重い年貢を課すのか?」
曽根昌世は苦笑いを俺に返した。
「戦をするには金がいります。安い年貢では戦えません。戦えなければ他国に攻められ領民は食い物と家族を奪われます。徳栄軒様も他国を攻め物を奪い、領民を飢えさせないように必死でした」
曽根昌世は遠い記憶を辿るような表情で俺に答えた。徳栄軒とは武田信玄のことだ。
食うために奪う。食えなければ死ぬ。
切実な欲望であり、弱肉強食の論理だ。
曽根昌世の言葉に俺はこの時代がいかに過酷か実感した。
「甲斐国は山国で貧しいとはいえ金山があり豊かじゃなかったのか?」
俺はふと頭に浮かんだ疑問を曽根昌世にぶつけた。甲斐国は山国だ。だから、攻めに難き守りに易き土地柄だ。そして、金山もある。この金山から取れる金が武田家の軍事力を支えたと言われている。その一部を領民達に流れるようにすれば餓えを解消できるのではないか。
「金山から取れる金は限りがあります。限りある金を全て民達の生活に使って、その先に何が待ってますでしょうか? 甲斐国は一枚岩ではありません。不安定な甲斐国の勢力の力関係を徳栄軒様の才気でまとめていたにすぎません」
曽根昌世は何も言わなかった。俺なら理解できると思ったのだろう。
金山から得られる収入を民政に向けもいずれ金鉱も枯れるだろう。枯れれば元の貧しい山国に戻るだけだ。それに金鉱から算出される金の量も一定では無かったと思う。不安定な財に頼りすぎた国家運営は危険過ぎると思う。でも、江戸時代まで甲斐国の金鉱は採掘されていたことを見るとそこそこの埋蔵量はあると思う。
「周囲を敵国に囲まれている以上、外に出て脅威を排除する必要がある。そして、国をまとめるなら内に籠もるより共通の敵をつくり外に出るべきだ。それを下支えするのが甲斐国から採れる金というわけか」
俺は思ったことを口にした。
「武田家は国中を治める武田家、河内を治める穴山家、郡内を治める小山田家の寄り合い所帯でした。それを徳栄軒様が苦心して統制していたのです。この三者がいがみ合っていては他国に攻め滅ぼされます。これを統制するためには飴が必要に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ