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霊群の杜
累(かさね)
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その知らせがLINEで届いたのは、夜半過ぎの事だった。


俺や奉は余裕で起きている時間帯だが、早朝出勤の鴫崎から真夜中に連絡が来るなど珍しい。少なくともここ数年はなかったことだ。訝りつつ、俺はLINEを確認した。

それは嫁が産気づいたことを知らせるLINEだった。


晩秋の、しかも夜半の風は冷たい。部屋着に厚手のパーカーを羽織って家を出たが、頬を切るような冷気はパーカーの下まで染み込んでくる。
「さむっ…」
誰に云うでもなく呟いた。
「そんな恰好で晩秋の冷気を凌げるか、馬鹿め」
車の影から低い声が這い寄って来た。内臓がせり上がるほどびびったが、次の瞬間には声の主に思い当たる。
「奉…お前、呼ばれてないだろ」
暗がりに溶け込むように佇んでいた奉は、まるで『知らせ』を予知していたように車庫の鍵を外した。芥子色の襟巻が、顎から鼻を厚く覆っていて、表情はほぼ見えない。
「お前帰れ。普通こういう場合は呼ばれてないのに行かないものだぞ」
奉は襟巻に深く鼻を埋めたまま、くぐもった声で一言、呟いた。



――見届ける、義務があるんだよ。



街灯の灯りを頼りにハンドルを切りながら、ミラー越しに助手席の奉を伺う。奉は殆ど喋らない。
何故、俺の家に居た。
見届ける義務とは何だ。
鴫崎の子に執着する理由は。
聞きたいことは数多あった。だが俺は何一つ口にできず、ただハンドルを切る。フロントライトが浮かび上がらせるボロボロの白線を、淡々と目で追いながら。
病院の駐車場に着いてもなお、奉は喋らず影のように俺の後ろをついてくる。昔、本で読んだ『べとべとさん』を思わせる、静かな下駄の音が、延々ついてくる。眉一つ動かさず、厚めの襟巻に己が身を隠すようにして。



「…鴫崎の実家、色々複雑で。実家からは誰も来ないから、俺が行くことは約束してたんだ」
奉が何も話さないので、仕方なく俺がぽつぽつと話す。
「っつっても、鴫崎は病室に入るから、俺は外で待機しているだけなんだけど」
そう云って、先ほど鴫崎夫妻の為に買ったサンドイッチやおにぎりを持ち直した。奉は相変わらず何も話さない。…聞いているのか、いないのか。こうして黙られてしまうと、如何に俺が自分から話をしない人間だったかと思い知らされる。
仕方なく俺はベンチに腰を下した。『分娩室』と書かれた薄い桃色のドアが、隣にある。中から奥さんの悲鳴のような息遣いと、鴫崎の怒号のような励まし?の声が漏れ聞こえてきていた。俺はLINEに『ドアの外に居る』とだけ送り、スマホを弄る。他に出来ることもないし、何と云っても居たたまれない。奉も、懐から小さな文庫本を取り出して頁を繰り始めた。


「…姉貴のお産を思い出す」
呟くと、奉が一瞬だけ顔
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