第193話 洛陽鎮護
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
甘言を吐く宦官に惑わされる事態が起こらなかったことが幸いだった。董卓軍があっては宦官達も自由に動くことは出来なかったともいえる。早く手を打つ必要があると正宗は憂慮した。
「お前が勅を出したのは間違いないだろう。だが、賈文和に力尽くで勅を書かされたのだろう。違うか?」
正宗は張遼から内情を聞かされていたため、劉協の言葉に惑わされることはなかった。それに彼は劉協が自分の命を狙うとは考えていなかった。もし、それをするには十分な理由があるはずだ。だが、そんな理由は正宗には見当が付かなかった。
劉協は正宗の問いかけに一瞬動揺をする。それを正宗は見逃さなかった。嘘をつけない性格だなと正宗は心で呟いた。正宗は自分の知る劉協のままだと再確認した。
「理由が何であれ、私が勅を出したことに変わらない」
劉協は俯きながら拳を握りしめていた。彼女の悔しさと自分の不甲斐なさを攻めているようだった。正宗は劉協の側まで近づくと膝を折り、何も言わずに劉協を抱きしめた。劉協は正宗の抱擁に驚くが堰を切ったように正宗の身体に顔を押しつけた。
「協、お前は一人でよく頑張った。後は私に任せろ。以前言ったはずだ。もう漢室の徳は失われた。私が漢室をあるべき形にする」
劉協の泣き声が正宗の耳に聞こえた。劉協は正宗の胸の中で肩を震わせ泣いていた。
「正宗、お前が私の側に居てくれたら上手くやれたのではと何時も思っていた。でも私ではお前が望む漢室に復興することはできない」
ゆっくりと喋る劉協の言葉に正宗は黙って耳を傾ける。
「その度に私は皇帝の器でないと思った。だが、ご先祖様のために私は皇帝たろうと頑張った。私は必死に頑張ったのだ」
幼い劉協にとって皇帝としての生活は苦労の連続だったのだろう。兄を人質としてとられ頼れる家臣もいない。心細さを胸の奥に終い、董卓陣営の傀儡とされた自分の無力さを痛感する日々だったことだろう。
「協、私は皇帝に即位する。だが、お前を殺すことはない。私に禅譲してくれ。私はお前とその子孫を保護することを私の子孫達に厳命し国是とすることを誓う」
正宗は劉協の扱いを自らが知る歴史の中から宋を建国した趙匡胤に倣おうとしていた。この時期、劉焉は朝廷に従わず益州に独立国を建国していた。この状態を朝廷はただ傍観するしかできなかった。これは益州の地が要害の地であるからである。また、朝廷の地方への統制力が落ちている現状は益州を野放しにせざるおえない状態にあった。
朝廷が朝廷として機能しない以上、苦しい方便ではあるが国難を打開するために徳高き者に劉協が自ら皇帝位を譲ることを宣言させることで正宗は即位しようと考えていた。そして、その手始めに益州征伐を行うことは調度良かった。勿論、皇帝位の禅譲に反対する後漢の皇族達が現れ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ