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第八十二話 要塞対要塞です。
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言うまでもない。
ともかくもアーレ・ハイネセンはイゼルローン回廊に入り次第先制攻撃を仕掛けたわけであるが、先に述べた「奇妙な指令」が将兵の心理に作用して、それが中途半端な結果になったことは否めない。さらに悪い事には敵要塞の接近によって、頼みの主砲が使えなくなった。この状況下、どう打開するか、敵を前にして会議が行われたのである。
ジャノ―・オーギュステ・クレベール中将は要塞制圧派であった。「国防委員長閣下がおっしゃっている以上、それに従うべきです!要塞制圧には多少の犠牲が伴うことになりましょうが、あの要塞を手に入れることができれば同盟の国防は鉄桶のごとく盤石になるではありませんか!」と、主張するのであった。
他方、シャロンの意を受けているティファニー・アーセルノ中将は「その指令は『可能であれば』という前置詞がつきます。攻略は不可能です。過去五度の戦いがそれを証明しています。すぐさまアーレ・ハイネセンは後退運動を開始するべきです。距離を置いて要塞主砲が稼働出来次第に断固として要塞を破壊しなくてはなりません!」と言い、強行に反対した。ヤン・ウェンリーはどちらともつかない態度を示し、沈黙し続けている。心持顔色を白くして双方の激論を聞いているウィトゲンシュティン中将としては「どうすれば!?」というところであった。彼女にとって重要なのは、第十三艦隊の生命を握っているのはいずれか、というその一点であった。武功をたてるのもひとえに第十三艦隊を守り抜くためである。
仮に要塞を破壊すれば、後々現場の総責任者として如何なる処置を下されるか・・・・。
そう考えたウィトゲンシュティン中将はぞっとなった。艦隊の再編成などという沙汰が下ったら、目も当てられない。せっかくよりどころを見つけた帝国の亡命者たちは離散してどこかの辺境或いは正規艦隊の一部隊として編成され、日陰者として過ごさなくてはならないだろう。それだけは絶対に阻止したかった。
かといって、シトレ大将、ブラッドレー大将の意向を無視することも得策ではない。そんなことをすればウィトゲンシュティン中将自身が司令官を解任されて、どこの馬の骨とも知れぬ第三者が司令官に就任する可能性もある。帝国からの亡命者でウィトゲンシュティン中将以外の中将は今のところ存在しない。
「どうすれば・・・・。」
彼女は華奢な手を額に持っていきたい衝動を抑え込んで考えていた。
「イゼルローン要塞をすぐに制圧できるか否か白黒が付くのであれば、この問題は解決すると思われますが。」
のんびりした、と言ってもいい場違いな声がした。ウィトゲンシュティン中将が顔を上げると、激論をしていたクレベール中将もティファニーもあっけに取られて一人の人間を見ている。
「そのような事ができると思うのですか、ヤン提督は。」
ウィトゲンシュティ
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