その勇気は何処に在る
[3/5]
[1]次 [9]前 最後 最初
────153
気付いた時には、遅かった。
それは五番目の壁。重くのしかかる重圧、振動するかの様な大気。それを纏うそれはまさに三番目の壁となり得た。
霊獣姫──ジャンヌ。
それは遥か彼方。達人級の魔剣使いのみが挑むとされていた魔鍵ユグドラシル。その最深部。
いつの間にかメリクとそこに立っていた。
一瞬だけ、メリクと視線を交わらせる。
そして、ジャンヌに視線を戻す。
それが戦闘開始の合図。
視認することすら難しい、まさに閃光の如き一撃。それが二人を襲う。
己の真横で爆弾の様な衝撃。弾け飛ぶ瓦礫が騒々しい。
もし一瞬だろうと動きが遅かったら、そう考えるのはすぐにやめた。
攻撃を避けたのなら、次はこちらの番だ。全力疾走し、その胴体に斬撃を入れようと跳躍する……直前。
反射的に足に込めた力を抜く。そして即座にバックステップ。
目の前の床が粉砕される。破片が頬を切り裂く。その小さな痛みが思考をクリアにする。
速い。だが、それを知っているからこそ、避けられるし、対応もできる。
目の前に振り下ろされたそれは足か、腕か、そんなものを認識するよりも速く魔剣をそれに突き刺す。
ジャンヌの悲鳴。
振り上げられる。それと同時に身体も持ち上がる。直後、二度目のジャンヌの悲鳴。
メリクの斬撃がジャンヌの腹部を切り裂いている。
ジャンヌの意識はメリクに向く。空を舞っている自分には気付いていない。
いやこんな所にいるはずないと思っているのかもしれない。
圧倒的なまでに好機。
この瞬間を逃す訳にはいかない。
言葉など不要。
一瞬だけ見えたメリクの鋭い視線から彼の想いを全ての理解する。
両手で構えた魔剣を振り下ろす。狙うは首筋。
ブロードソード、お前の全力を、出し尽くして、こいつを────────ッッ!
154
………………気が付いた時、空を見上げていた。
背後には、長い時間いたユグドラシルが聳え立っている。
どこか親近感のようなものも湧いた。
隣には誰もいない。
あったのは、確かな存在感を醸し出すソウルの波動と、光を失ったブロードソードとルーンブレードだった。
そこに称賛の声は無く、あったのは、虚しさだけ。
そう。
メリクは、死んだ。自ら囮となって。その際に、ルーンブレードが崩壊した。
その隙を狙いながらも、だがブロードソードが崩壊する程にジャンヌは強大だった。
最終的に、ブロードソードが崩壊するとほぼ同時にジャンヌは生き絶えた。
あまりに、何も感じなかった。
その出来事が大き過ぎて、感じ取れなかった。
それから
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ