巻ノ八十一 上田城へその五
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「絶対にな」
「その通りです」
「東国の民達もようやくな」
「近頃ですな」
「豊かになってきたな」
徳川家の領土がというのだ。
「最初来た時はじゃ」
「駿河と比べますと」
「比べものにならないまでにじゃ」
まさにというのだ。
「東国は貧しかった」
「北条殿の政がよかったので餓えてはいませんでしたが」
「どうしてもな」
「はい、貧しかったです」
「それが田畑を整え町もな」
「造っていき」
「よくなった」
「豊かになりましたな」
「そうなった、そのことから思うが」
「兵は、ですな」
「餓えぬ様にな、そしてじゃ」
さらに言った秀忠だった。
「途中民達にはじゃ」
「はい、決してですな」
「略奪等は許すな」
「若しそうしたことがあれば」
「斬れ」
返事は一言だった。
「おなごの編笠を覗いても一銭を盗んでもじゃ」
「そうしてもですな」
「斬れ」
そうした些細なこともというのだ。
「許すでない」
「徹底して、ですな」
「そうしたことは許すな」
「わかり申した」
榊原はまた頷いて答えた。
「それでは」
「そちらもな」
「徹底します」
「このことはな」
「他の家の方々にも」
「伝えてくれ」
「はい」
榊原は秀忠にすぐに答えた。
「ではな」
「その様に」
また応えた榊原だった、そしてだった。
秀忠はもう一人傍にいる信之にはだ、こう言った。
「さて、まずはじゃ」
「上田城にですな」
「向かうがじゃ」
「それがしは」
「出陣の時に言った通り休んでおれ」
上田城を攻める時はというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
信之は秀忠に答えた。
「それでは」
「うむ、それではな」
「しかし若殿」
旗本の一人が秀忠に言って来た。
「真田殿は城のことに詳しいので」
「だからか」
「はい、城攻めに加わって頂ければ」
「心強いというのじゃな」
「そう思いまするが」
「それならならん」
秀忠はその旗本にすぐにこう言った。
「親兄弟で争うことはな」
「それはですか」
「出来る限りはじゃ」
「せぬ方がよい」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「そうする、よいな」
「わかり申した」
その旗本も秀忠の断固たる言葉に頷いた。
「それでは」
「ではな」
その旗本の言葉を受けてだ、秀忠は彼に微笑んでからだ。周りの他の面々に対してあらためて言ったのだった。
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