巻ノ八十一 上田城へその三
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「ただ怒られるだけで」
「そのうえでな」
「下の者に言われるだけです」
「だからわしのこの申し出もじゃな」
「残念ですが」
「聞かれぬか」
「そうなるかと」
間違いなく、というのだ。
「あの方の場合は」
「そうなるな」
「はい」
「だが言ってはみる」
それはするというのだ。
「わしもな」
「そうですか」
「一応な、駄目であろうがじゃ」
「言ってみれそれが成ればよし」
「だからじゃ」
「殿は茶々様の夫となられ」
「徳川家と豊臣家が一つになるのじゃ」
「お拾様と千姫様の縁組もありますし」
このことはもう決まっていることだ、秀吉と家康の間で決まっていて話を進めるだけになっているのである。
「これも成れば」
「完全となる」
「茶々様を江戸に迎えて」
「悪いことはないが」
「あの方がおわかりになられぬ」
「そのことが厄介じゃな」
先のこともだ、家康は既に考えていた。その家康に対して石田もだった。
大谷に先のことを問われてだ、こう答えた。二人は今は休憩を取って共に飯を食っている。
「決まっておる、残る三大老の方々を軸にしてじゃ」
「治めていくか」
「そうしようぞ」
「御主も大老になるな」
大谷は石田にこうも言った。
「その時は」
「わしが百万石あればな」
「この様なことになっておらんかったしな」
「だからじゃな」
「御主が百万石の大身になってじゃ」
「大老の一人としてか」
「お拾様を助けて治めることになるな」
まさにというのだ。
「そうなるな」
「そうか、わしが大老か」
「あまり嬉しくなさそうじゃな」
「わしは己のことはどうでもよい」
はっきりとだ、石田は大谷に言った。
「豊かになるとかはな」
「どうでもよくてか」
「うむ、そうしたものよりもな」
「天下のことじゃな」
「そうじゃ」
そちらの方が大事だというのだ。
「やはりな」
「そう言うか、やはりな」
「わしのこうしたことは知っておろう」
「欲がないのう」
「少なくとも金銀等はどうでもよいし官位とかもな」
「どうでもよいな」
「考えたことがないと言えば嘘になるが」
しかしというのだ。
「それでもじゃ」
「あまりじゃな」
「興味がない、酒も馳走もな」
そうしたものもというのだ。
「どうでもよい」
「あくまで豊臣家のことをか」
「考えておるだけじゃ」
「そうじゃな、だから御主はな」
大谷は一旦瞑目する様にだ、目を閉じてから石田に話した。
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