巻ノ八十一 上田城へその二
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「しかしな」
「なければ」
「攻めるであろう」
「そうなりますか」
「しかし最早竹千代しかおらぬ」
家康は正面を見てだ、本多に述べた。
「わしはそう思っておる」
「跡を継がれるのは」
「あ奴がおらぬからな」
長子であり嫡男だった信康だ、家康にとっては掛け替えのない我が子であり必ず自身の跡をと思っていた。知勇兼備であり家中での信望も集めていた。
だが織田信長の命により腹を切らさせた、無論泣く泣くだ。家康にとっては今も断腸のことである。
「だからな」
「そうなりますか」
「無念であるが」
それでもというのだった。
「言っても仕方ない」
「では」
「あ奴は律儀で生真面目じゃ」
秀忠のその気質を言うのだった。
「しかも政の才はある」
「だからですな」
「戦の世は終わる」
このことを見ての言葉である。
「だからな」
「その世の方となられますので」
「あ奴でよいのじゃ」
「そうなりますか」
「そうじゃ、ではわしはな」
「このままですな」
「西に進む」
東海道、そこをというのだ。
「そして美濃で岐阜城を攻め落とすことになろう」
「そのうえで」
「うむ、その西で戦うことになる」
石田達と、というのだ。
「おそらくな」
「それでは戦の場は」
「関ヶ原か」
そこだというのだ。
「あそこになろうな」
「関ヶ原ですか」
「あそこは東西の道が交じりな」
「山が多いですが開けてもいますので」
「戦うならじゃ」
まさにというのだ。
「あの地となる」
「それでは」
「関ヶ原に行く」
馬上でだ、家康は胸を張って言った。
「そしてあの地で勝ちな」
「そのうえで、ですな」
「一気に大坂まで行きじゃ」
「戦の後始末もして」
「それでじゃ」
そこまでして、というのだ。
「ことはなる、それとじゃが」
「はい、茶々様ですな」
「わしも今は正室がおらぬし」
「あの方を奥方に迎えられれば」
「よいと思うが」
「はい、それがしもそう思いますが」
本多は家康のその考えにまさに、という顔で返した。だがそれは最初だけですぐに難しい顔になりこうも言った。
「ですがあの方は」
「気位が高いからのう」
「殿の申し出であっても」
「断られるな」
「それがどういったものか気付かれることなく」
これが茶々の難しいところだ、実は政のことが全くわからないのだ。勿論戦のことも然りだ。そうしたことは疎いどころではないのだ。
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