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Three Roses
第三十五話 臨終の床でその二

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「進むのが速いです」
「妙な病だな」
「それにお妃様は元々お身体が弱いので」
「余計にか」
「病にも弱いのでしょう」
「確かに元々身体が弱かった」
 太子は顔は伏せなかった、それは帝国の次の主としてしてはいけないことと考えているからだ。言葉と目はそうさせて言った。
「私がこの国に来た時もな」
「それより前からの様ですね」
「どうやらな」
「余計にあの病には弱いです」
「そういうことか。しかしエヴァンズ家に早世の者が多い訳がわかる」
「あの病がです」
「血の中にあるな」
「ですから」
 それが為にというのだ。
「あの様にです」
「若くして亡くなる者が多い」
「そうかと」
「わかった、ではだ」
 それならとだ、太子はあらためて言った。
「三人にはだ」
「今からですね」
「別れの挨拶をしてもらおう」
「そして太子は」
「私もだ、だが」
「だが?」
「臨終の床に若しもだ」
 こう前置きして話すのだった。
「マリー王女達が呼ばれたならだ」
「その時はですか」
「太子は」
「三人に譲る」
 そうするというのだ。
「喜んでな」
「太子はご夫君ですが」
「それでもですか」
「そうされるのですか」
「お三方に」
「そうだ」
 こう言った、側近達に。
「譲るつもりだ」
「ご夫君でも」
「それでもなのですね」
「お三方に譲られる」
「そうされますか」
「私はエヴァンズ家の者でないしだ」
 またこのことをだ、太子は出した。
「しかももうこの国を去ることは決まっている」
「だからこそ」
「それで、ですか」
「前に出られることはなく」
「お三方に譲られる」
「そうされますか」
「確かに最後最の最後まで諦めるべきではない」
 政治においてはとだ、太子は言った。
「しかしだ」
「それでもですね」
「退き際は見誤るな」
「そういうことですね」
「政でも同じだ、戦とな」
 退き際を間違えるな、このことはというのだ。
「無様な退きはすべきではない」
「潔く、ですね」
「退くべき時に退く」
「そしてそれは今ですね」
「まさにそうなのですね」
「そういうことだ、私は退く」
 太子の言葉は落ち着いていた、それも実に。
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