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白く咲けるは何の花ぞも
一.岡豊の姫若子
一章
二.西国より来た男
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ものなのだろうか、と胸の内で考えてみたが、そんな甘いものとはまた違う。
 身の内でざわめく苛立ちの正体が分からず、自分にこんな感情を抱かせる相手への興味が、元親はますます湧いて来た。

「名前を聞くぐらいいいじゃねえか。何も一晩伽の相手をしろって言ってんじゃねえんだぜ」
「兄上!」
「いちいち兄上、兄上うるせえよ。ちょっとふざけただけだろうが」
「度が過ぎます。それでなくても兄上の女遊びは些か過ぎていると言うのに」
「親益。お前も口喧しいところが親泰に似て来たな」
「兄上が誰の言うことにも耳を傾けて下さらないからです! いつまで皆に好きに言わせておく気なのですか」
「好きも何も、これが俺の本性だ。お前らの兄貴はその程度の男なんだよ」
「兄上!」
「うるせえ、うるせえ。耳元でぎゃんぎゃん喚くな」

 兄弟が口喧嘩を始めた間、男は黙して立っていたが、聞いているうちに馬鹿馬鹿しくなってきたのだろう。
 溜息を吐き、立ち去ろうと振り返るところを、後ろから素早く腕を掴んだ元親に捕まり、肩へと担ぎ上げられた。

「な…っ、貴様、離さんか!」
「ちょっくら俺と一緒に来てもらうぜ。あんたに興味湧いて来た。親益、おめえは先に岡豊の城に帰ってろ」
「兄上!」
「大人同士の話し合いだ。お前みたいな小僧はついて来んな」
「離せと申すに……!」

 戸惑う弟をその場に残し、男を軽々と担いだ元親は堤を一気に駆け下りて、川辺にある人気のない小屋へと向かう。
 簡素な扉を足で蹴破ると、中へと入り、肩に担いだ男を地面の上に降ろす。
 何か文句を言われる前に彼の上にのしかかり、着ている衣服を剥ぎにかかった。

「や…めんか……! 貴様、殺されたいか」
「殺れるものなら殺ってみろ。岡豊の姫若子はか弱いからな、お前みたいな痩せた男だろうと一撃でのせるに決まってる」
「ふざけた真似を……!」

 日頃、人形遊びが好きな姫若子よ、と嘲りを受けていても、自他共に剛腕を誇る親貞、親泰の兄である。
 熱心に槍の稽古をしないだけで、相撲でなら弟たちに負けたことのない元親だった。
 自分より小柄で腕も細い相手を組み伏せることなど訳もない。
 ただ、元親が思うより、相手の男も弱くはなかった。
 腹部に激痛が走ったと思った瞬間、彼の身体は跳ね飛ばされていたのである。

「やるじゃねえか。てっきり誰かの情人かと思いきや、どうやらそこそこ腕も立ちそうだな。だったら尻の締まりもいいだろう」
「黙れ。貴様如きに愚弄される我ではないわ」
「だから、その御高名を聞かせてくれって言ってんだろうが」

 飛びかかる元親の目に、相手の男は掴んだ砂を投げつける。
 目潰しを食らって顔を背けた彼の腹部を再び男の足が蹴り上げた。
 ここまで馬鹿にされては元
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