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白く咲けるは何の花ぞも
一.岡豊の姫若子
一章
二.西国より来た男
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人の噂に上るものである。
 そしてこれは相手が自分の懐に飛び込んで来て気付いた事だが仄かに香の香りがした。
 綿でさえ高級品な時代。
 そして由緒ある公家の娘だろうと、困窮した家を救うために、武家に嫁がねばならない時代である。
 これだけの出で立ちを用意出来る財力がある相手となれば土佐では伊予までの西部一帯を治める土佐一条家ぐらいなものだった。

「人に名を尋ねるならば、まず貴様から名乗りを入れるのが筋であろう」

 凛とした張りのある声が元親の問いに答える。
 萩丸と最初に出会った時の言葉、そのままを返された元親は思わず笑ってしまった。
 やはりこの相手は男。
 元親と大差ない年齢の若い男のようだった。

「俺は長曾我部元親だ。この辺りじゃどうやら元親と名乗るより、姫若子と言った方が皆の物分かりもいいようだがな」
「……岡豊の、姫若子だと? 長曾我部国親とやらの息子か」
「おうよ」

 この公達も元親のことは耳にしていたのか、一時思案した後に、手にした小柄をしまい、元親と向き合った。
 目の前の相手が岡豊の城主の息子と聞いても臆しもしない。
 ふてぶてしいのか、それとも彼もまたそれなりの地位に立つ男なのか。
 ムッとした親益が一言物申そうと前に進み出たが、仰々しい礼節など元々糞食らえな元親は、弟を片手で制してその男の前に立ち、上から見下ろした。

「その顔を覆った紗を外してもらえねえか。見たところ相当綺麗なお顔立ちしている様だが、だったら人前で隠す必要はあるまいよ」
「顔を晒す理由がない」
「そんなこと言わずに見せてくれよ。何だよあんたの顔は見物料を納めなきゃ拝めねえほど貴重だってえのか?」
「……」

 言っても駄目ならと無理やり?がそうと手を伸ばす元親に嫌悪を露わにした相手は、渋々自分から薄い絹の布地を外した。
 思った通り、線の細い、すっきりとした綺麗な顔立ちの男である。
 涼しげな目許だけを見れば色香のある女と見間違えかねないが、紅を挿していない真一文字の口許は紛れもなく男。
 それも意志が強く、頑迷な性格であろうことを如実に表していた。

「もう一度聞くが、どこから来た。大方、一条家辺りの客人か」
「差に非ず。しかし、我が何者であるか知ったところで貴様には一切損得のないこと。この地はたまたま寄っただけ故、明日には立ち去る身。名乗るほどのこともあるまい」
「兄上が問うておるのだ。名乗れ」
「親益」

 再び弟を止め、元親は青年の顔を再び覗き込む。
 彼に見つめられ、相手も臆さず、切れ長の双眸で見返して来た。
 不思議と、何故か惹きつけられる相手だった。
 萩丸と似ているせいもあるが、それ以外にも何か、説明し難い引っかかりを覚える。
 ひょっとしたらこれが一目惚れと言う
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