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白く咲けるは何の花ぞも
一.岡豊の姫若子
一章
二.西国より来た男
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る言い草じゃ」

と言って聞かなかった。
 土佐の気風は昔からこうなのだ。
 議論好きで喧嘩好き。
 何でも口を挟まねば気が済まないのが土佐っ子気質だった。

「申してみい、彦十郎」
「はっ」

 彦十郎と呼ばれた男は、一同の視線を受けながら、緊張した面持ちで「島の、親益様が宜しいかと思います」と国親の四男の名を口にした。

「親益様は穏やかなお人柄で、儂ら一領具足らにも親しく話し掛けて下さる心身共に優れた立派なお方にございます。日がな一日、笛ばかり吹いて余興に耽っている若様が世継ぎでは、国親様亡き後、儂らは安穏とこの岡豊の地で暮らしてゆけません」

 よりによって外腹の親益か、と皆が白じんだ顔を浮かべたが、国親は不機嫌に下がれと手で示しただけだった。

「親益は、あれは外腹だ。あいつは島の家を継ぐ身であるし、我が祖である長曾我部の名を与えるつもりはない。それは香曾我部に養子に出した親泰も同じこと。儂の跡継ぎは元親、親貞どちらかより相応しい方を選ぶ」

 どちらが相応しいか。
 それは聞くまでもなく、一同一致で次男親貞の方だった。

「本山攻め、この戦にて元親、親貞、親泰の初陣の儀を執り行う。その働きを見て誰がこの長曾我部を継ぐのに相応しいか判断しようぞ」


 大広間でそんな会話がされているなどとは露にも思わず、長曾我部家の長男、元親は四男の親益を連れて国分川のほとりに遊びに来ていた。
 心地良い風が木々の葉っぱを揺らす中、元親が奏でる笛の音が青い空へと溶けて行く。
 長曾我部元親、幼名を弥三郎と言い、人形遊びの好きな大人しい若殿だったことから「姫若子」とあだ名された国親の長男である。
 幼少時代のか細く、儚い面影は大分薄れてしまったが、代わりに着衣の裾からはみ出る手足は長く、すらりと伸びて、若駒のような力強さのある引き締まった体躯の若者へと成長していた。
 姫若子と呼ばれる一因ともなった母親似の端正な顔立ちはそのままだが、日頃の不摂生が祟ってか、幾分擦れた感じになっていた。
 野性味を帯びたと言えば表現は良いが、好きな時刻に寝て、目が覚めた時刻に起床し、酒と女遊びが好きなふしだらな生活が、持って生まれた気品ある顔立ちを粗野な風貌へと変えていた。
 それでも本人は心を改めるつもりもなく、弥三郎は姫若子のまま、長曾我部元親と名を変え、年齢だけを重ね、いつしか二十二歳になっていた。

「兄上」

 元親の笛の音に聞き入っていた親益が、馬の嘶きを耳にして遠くの方へと目を凝らす。

「早馬が駆けて行きます。あの方角は香美郡の方角でしょうか」

 弟の声に笛を吹くのを止めた元親も立ち上がってそちらの方を眺めて見た。
 六尺を猶に超える元親の長身がゆらりと立ち上がると、親益の小柄な体型が余計
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