一.岡豊の姫若子
一章
二.西国より来た男
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呆れてはいても、親の欲目なのか、国親は元親の思慮深さ、姫若子などと呼ばれてはいるが、それでも自身の考えを曲げない芯の強さに自分以上の才を見出していた。
以前、奇妙な夢を見た時、戯れに占術師に占わせてみたら、長曾我部家にとって吉兆だと言われたのだ。
「蛇に喰われる虎の夢、それ自体は野の虎と称される国親様にとっては必ずしも吉兆ではありませんが、御家にとってはまさしく吉兆にございます。蛇とはご子息元親様と私めは捉えました。元親様の代で、国親様が叶えられなかった大望は必ず成し遂げるに相違御座いません」
目の前で自分の母が神仏への祈祷を止め、焼け落ちる城の中、自ら喉を突いて自害して果てるまでをその目で見てきた国親は、占いの類も神仏への信仰も何も持たなかった。
その彼が長曾我部家の吉兆だと言う夢占いを信じる気になったのは、あれは駄目だ、救いようのないうつけ者だと呆れ返っていても、本心ではいつか息子には自分の屍を乗り越えてもっと大きく成長してもらいたい──、国親のそんな親心かも知れない。
だからこれまで家臣から散々元親を仏門に入れろと進言されても悉くはね除けて来た。
しかし、今度ばかりはそうもいかない。
香曾我部親秀には親泰を養子に出している。
その手前、元親の初陣をいい加減はっきりさせねば、国親までもが臣下達に反目されかねない。
「初陣の件は、国親様もお考えだ。いずれ……」
ひとまずその場を取り繕おうと適当に流す吉田周孝を遮り、国親はようやく重い口を開いた。
「皆の意見をちっくと聞いておきたいのだが。元親と親貞、おまんらはどちらがよりこの長曾我部家の主に相応しいと思っちゅうのか。遠慮はいらん、遺憾なく答えて欲しい」
そうは言われても一同が揃う前で、面と向かって姫若子にはついていけんと国親に訴える者はさすがにいなかった。
皆が互いの顔色を窺い、誰か──、特に国親の従兄弟に当たる戸波辺りが皆を代表して国親に進言してくれないかと、そわそわするだけの時間がただ流れて行った。
本来なら長子を擁護する声が一番に上がっても良い筈である。
それが一言も出ない辺りに元親では駄目だと言う皆の意見が表れていた。
「国親様に儂なんぞが申し上げるには大変心苦しゅうございますが」
一番末席、と言うより、座も与えられず、庭の地の上に座していた一領具足の頭領が口を挟む。
「おまんの様な下の者がお家のことに口を挟むな」
勿論、叱責は飛んだが、その男は
「しかし、国親様は今、遠慮のう申せと仰有った。確かに儂らは農民じゃ。しかし、儂らだとて戦となれば鍬を棄て、槍を掴んで戦場に駆け付ける。その大将を誰にするか決めるのじゃ。己の命を預ける相手を決めるっちゅうに、儂らに口を挟むなとはなんた
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