一.岡豊の姫若子
一章
一の2
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い目尻が糸のように吊り上がり、何とも言えぬ愛嬌を見る者に抱かせる。
「修行って、何の修行だ。この神社の坊主か」
訝しむ弥三郎に、萩丸は笑顔のまま答える。
「何の修行かと問われても萩丸も知らん。木の葉に化けたり、餅に化けて前を通る民を冷やかしたり、色々と修行を重ねておるが、なんの役に立つ修行であるのかは知らんのじゃ」
「戯れを申すな」
最初こそ警戒していた弥三郎だが萩丸のけろっとした悪びれない様子に次第に打ち解け、親しく話せるようになっていた。
城内でも人見知りが激しく、滅多に表に出ない弥三郎には珍しいことである。
しかし、他人と話すことに慣れていない弥三郎の頬は萩丸の赤みが挿した頬に負けないぐらい、赤く色付いていた。
所在なさげに掌の脂を袴で拭い、何を話して良いのかわからず、しどろもどろに視線を彷徨わす。
そんな弥三郎の様子に気付いているのか、いないのか、
「弥三郎。お前、腹が減っておろう。餅でも食うか」
と彼の目の前に柔らかそうなつきたての餅を差し出した。
湯気の立つその餅を物欲しそうに眺め、弥三郎は自分が今日一日まだ何も口にしていなかったことをようやく思い出す。
姉の嫁入りのことで頭がいっぱいで、自分の寝食のことなどすっかり忘れていた。
「遠慮せずに食え。食わぬのならその辺に投げ捨てるぞ」
「………」
おずおずと手を出し、疑心暗鬼に餅を食む。
食べた途端、木の葉に化けるのかと思ったが、今まで食べたどんな餅より柔らかく、舌の上で蕩ける甘さの実に美味い餅だった。
「まだあるぞ。欲しいだけ出してやるから、たらふく食え」
不思議と無尽蔵に沸いてくるその餅を弥三郎は疑うこともなく、パクパクと食欲旺盛に良く食べた。
「この餅、お前が馬糞や木の葉から化かして作った餅じゃないだろうな」
「さてさて、どうじゃろうの」
萩丸はころころと陽気に良く笑う。
つられて弥三郎も笑顔をとりもどし、それまで彼の心を占めていた姉との別離の寂しさも徐々に和らいでいった。
萩丸への警戒心が溶けた事が気の緩みに繋がったのだろう。
「於能姉やんが……、本山に嫁いだんだ。それが悲しくて泣いていた」
「ほう、そりゃめでたい」
「なにがめでたいものか!」
餅を食べながら、弥三郎は今朝起きてから自分の身に起きたこと、父親に分かってもらうどころか殴られて哀しくなったことを全て話した。
「嫁入りはめでたいことじゃ。祝の門出を涙で湿らせてはいかんぞ」
「本山は長曾我部の敵だ。俺は長曾我部家を継がねばならんから、姉やんをいつか殺さねばならん。そうでなければ俺が本山茂辰に殺されてしまう」
「なるほどの。しかし、貴様みたいな姫若子に戦の真似ごとなど出来まいが」
「
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