一.岡豊の姫若子
一章
一. 岡豊の姫若子
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を継ぐのは誰? 」
「俺は長曾我部の家は継がん! こんな家、嫌いじゃ! 」
「じゃあ弥五郎にこの姉を殺させるの? 弥七郎に本山に嫁いだ姉やんは長曾我部の敵だと、そう信じこませて討たせるの? 」
「俺にどうせいっちゅうんや! 決めたのは父上じゃ! 何度頼んでも聞いてくれんかった! 父上は嫌いじゃ! 」
「だから、貴方が長曾我部の家を継ぐの。強くなりなさい、弥三郎」
再び、弥三郎の中で悲しみが膨れ上がる。
姉が何を言ってるのかさっぱり分からなかった。
「姉やんは、俺が父上のようになったらいけんと──、なのに、何で今度は長曾我部の家を継げって言うんじゃ」
「貴方なら姉やんを殺さないでしょ、弥三郎。良く聞いて。わたくしも本山に嫁いだら、長曾我部家との橋渡しになれる様、精一杯努力します。だから、長曾我部の家は貴方が必ず継いで、弥三郎。そして、貴方の弟たちを守れる強い男になるのです。姉やんの言うこと、貴方なら理解出来るでしょ。強さは何も槍や鉄砲を持って人を斬り殺すことだけではありません。こんなに痣になるほど殴られてもそれでも自分のことよりわたくしの身を案じてくれる弥三郎の優しさこそが、国を守れる強さになれる筈。わたくしはそう信じているから、何も迷いはありません」
自分の思うまま、正しいと思うことだけをこれからも選択して行きなさい──。
それが姉が嫁ぐ前に、弥三郎に残した最後の言葉だった。
「秦の神様に弥三郎のことを良く頼んでおきました。わたくしと思って、この札を肌身離さず持っていていなさい」
自分とお揃い、と笑って弥三郎の手に錦糸の袋に入った護符を手渡し、姉は用意された輿に乗って本山茂辰のいる長浜の城へと去ってしまった。
「姉やん……」
国親の屋敷を抜け出て、岡豊山の山腹に立った弥三郎は豆粒程になった姉の輿を見えなくなるまでずっと見送っていた。
あの若様はうつけよ、姫若子よと嗤われても弥三郎とて武人の子。
この婚儀の目的が分からぬ筈もない。
恐らく姉とは今生の別れになるだろう、その覚悟を自分に言い聞かせるにはまだ彼は幼な過ぎた。
「びーびーとよく泣く小童じゃ」
と弥三郎の背後から明るい、鈴の音のような童子の声が耳に届く。
何者だ、と振り返って見れば、弥三郎より小さい子供が彼を見上げてにやにやと笑っていた。
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