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白く咲けるは何の花ぞも
一.岡豊の姫若子
一章
一. 岡豊の姫若子
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た。

「弥三郎」

 その姉が優しく話し掛けて来る。
 弥三郎の頭を撫でると、父親に打たれて赤く腫れた頬を撫でてくれた。
 慰められると余計に泣きたくなってくるものである。

「ほらほら、於能様、そんなに弥三郎様をお労りなさったらまた泣きゆうがね。若殿、城下の者が若殿のこと何て言うちょるかご存知ですか? 姫若子さんですよ。国親様もどれだけ若様のことに頭を悩ませちゅうか」
「萩野」

 土佐の女らしく、ずけずけとものを言う侍女の萩野を於能が慰める。

「弥三郎はこれで良いの。この子は優しいだけでなく、賢い子だから、見えなくていいことまで見えてしまって、それが心配になってしまうのよね、弥三郎」

 そう、この弥三郎。
 色白なだけでなく、顔つきも母親譲りの端整な顔立ちで生まれついた為、城下のみならず、家中の者にまで「姫若子」と陰口を叩かれ、笑われていた。
 本人もそれを感じとっていたから余計に引き籠もり、姉が語ってくれる源氏物語の煌びやかな夢物語の世界に浸っていた。

「……父上に、殴られました」

 嗚咽を漏らし、姉の胸の中に飛び込んで泣きじゃくる。
 於能はそれを受け止め、弟の背を優しく叩いてやった。

「弥三郎はわたくしの身を案じてくれているのね。優しい子」

 泣きじゃくる弥三郎を下の弟は不思議そうな目でジッと見つめ、先ほど弥三郎を姫若子だと嗜めた侍女の萩野は呆れて自分の用事を済ませに部屋を退出していった。

「どうして姉やんが本山に嫁にいかんといけん。本山は長曾我部の敵だ。姉やんが殺されてしまう」
「弥三郎……」

 この弥三郎、覇気のない、大人しい子ではあったが、それでも国親の子らしく頑固な質で、自分が嫌だと思うことは何があろうと絶対に首を縦に振らなかった。
 今回の於能の婚儀の件も相手が本山だと知るや、「絶対嫌だ」と泣いて父に盾突いた。
 いつまでも弥三郎がしつこく食い下がり、顔を見る度に国親に食らいついて裾を離さない。
 婚儀の日の朝になってまで息子が物分かりの悪いことを言うのにとうとう堪忍袋の緒が切れた国親は、「お前はそれでも儂の子か! 」と激怒して弥三郎を殴ったのである。
 それが今朝起きた事の顛末だった。

「弥三郎は姉やんの身が心配? 」
「決まっちゅうき! 本山は敵じゃ! 父上が小さい頃、どんな目に合わされたか、於能姉やんだって知っちゅうがや!」
「私は全然心配していないのよ、弥三郎」
「何でじゃ! 俺と姉やんが仇同士になるがじゃろ! 姉やんと戦せにゃならん!」
「落ち着いて、弥三郎」

と姉が再び、弥三郎の頬を伝う涙の滴を拭う。
 弥五郎は泣きじゃくる弥三郎に飽きてしまったのか、どこかに行ってしまっていた。

「お父様亡き後、この長曾我部の家
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