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白く咲けるは何の花ぞも
一.岡豊の姫若子
一章
一. 岡豊の姫若子
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長曾我部家にとっては恨みこそあれ、けして家付き合いなどしたい相手ではないのだが、本山は今の長曾我部家にとっては手強い相手である。
 またこの婚儀は国親にとって大恩ある相手、一条房家が、争いの絶えない両家の仲を取り持とうと自ら仲介に入り、労を負った婚儀だった。
 両家共に房家の顔を潰す訳にもいかず、しかも長曾我部家にとっては本山が攻めて来る憂いを絶てれば他の、例えば香美郡の香曾我部や安芸郡の安芸氏に目を向けることも出来る。
 断る理由もない為、国親の一存で於能の婚儀はとんとん拍子に事が運んでいった。

「いつまでも拗ねていないでこっち来いや、弥三郎。姉やんと遊ばん? 」

 七つ年上の姉が弟を呼ぶが、彼は抱えた膝の上に頭を被せ、俯いたまま返事もしなかった。
 於能は父に似て肌も浅黒く、けして器量良しではないが、気立てが良く、笑った顔は周囲を和ませる健康そうな明るさに満ちていた。
 一方の弥三郎──、天文八年、国親が岡豊に帰ってから二十年も経ってようやく授かった男子だが、姉とは違い、生まれつき色白で、その白さは肌のみならず、髪や体毛まで雪の如く、真っ白だった。
 背こそ長曾我部家の血筋らしく、その歳の子らに比べれば大きく健やかに伸びてはいたが、この弥三郎、性格も大人しい子だった。
 食も細く、好き嫌いが激しい。
 物心がつき始め、自分と他者の区別がつくようになると、自分の見た目がかなり特殊なことに本人も気付き始めたのだろう。
 賢く、敏い子だったから、自分を見る時の父の目が下の弟たちと違うことにも気付いていた。
 本当にこの子は自分の子なのだろうか。
 国親が疑いたくなるのも仕方がない。
 弥三郎は益々引きこもりがちになり、殆どを於能と人形遊びをして過ごした。
 奥にばかり引き籠もってる肌は益々白くなり、日照不足で不出来に上がった大根みたいにひょろひょろと縦に長く、痩せていた。

「兄上はのぅ、父上に殴られたからどぐれてんのや」
「うるさい、弥五郎」

 生意気盛りの二つ下の弟、弥五郎は三つ。
 良く食べ、良く跳ねる元気のいい子だった為、既に木刀を振り回し、喧嘩では小さいながらも兄の弥三郎と対等にやり合った。
 この下にまだ赤児の弥七郎と二十年男子に恵まれなかったにも関わらず、母の祥鳳は次々と男児を身籠もった。
 祥鳳は美しい女だったがさほど頑丈ではなく、出産の度に長く寝込むことも多かった。
 弥三郎と弥五郎の面倒は姉の於能が母親代わりになり、良く見てやっていた。
 その母親より懐いている姉の嫁入りの日である。
 弥三郎は於能と別れるのが辛く、また於能の嫁ぎ先と長曾我部の家がどんな関係にあるのか、薄々勘付いていたから、独りぼっちになってしまう自分の寂しさと姉のこれから先の身を案じ、しくしく泣いていたのであっ
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