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白く咲けるは何の花ぞも
序章
序章
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うな」

 貴様なら、と苦笑を浮かべて毛利が額を胸に押し当てる。
 興奮して疲れたのか、毛利は長曾我部の腕の中で静かにそっと目を閉じた。
 冷たい肌が長曾我部の熱に温められてじんわりと人肌の温もりを取り戻す。
 心なしか頬に血の気も戻ったようで、彼の無愛想な視線を受け止めた長曾我部は素早く毛利の頬に唇で触れ、彼が怒り出す前にすぐに離した。

「何故、嗤う」
「笑っちゃいねえよ。真面目も真面目だ」
「貴様は信用ならん」
「お互い様じゃねえか。ま、とにかく、こうしてまたあんたを俺の腕の中に抱く事が出来た。その点にゃ感謝せねばなるまい。てっきりあんたは死んだものと思っていたからな」

 それは毛利も同じだろう。
 あの日、長曾我部が豊臣秀吉の侵攻を防ぎ切れずに、敗北を喫した時、あの場所に毛利の本陣が確かにあった。
 その後の記憶が長曾我部の中から抜け落ちているが、毛利が竹中と袂を分かって中央へ向けて兵を上げたいのもその直後だと伝え聞く。
 毛利にまんまと嵌められ、裏切られた長曾我部。
 そして、国の為、長曾我部の好意を利用して踏みにじり、国体の保全を最優先させた毛利。
 互いへの愚痴や恨み言、不満が溢れても良さそうなものだが、どちらもその言葉は口に出さなかった。
 立場が変われば、事情も変わる。
 自分自身、その選択に悩まされることのある長曾我部と、再び同じ機が起これば、何度でも長曾我部を裏切るであろう毛利だから、互いに言い訳は必要としなかった。
 ただ、密やかに視線を交わし、どちらともなく唇を寄せた。
 滑る舌から毛利の体温が長曾我部にも伝わって来る。
 氷の武将と言えど、身の内まで冷たい訳ではない。
 彼の洩らした吐息のような喘ぎ声に長曾我部は口元を緩ませながら、やはり自分は誰よりもこの相手を欲し、愛おしく思う気持ちを止められないのだと確信した。
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