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白く咲けるは何の花ぞも
序章
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れない。
 一度抱いた憎悪の念はけして消えることはなく、ちろちろと蒼い焔のように燃えたぎらせる。
 彼の背後に憑いている白蛇のようにぬめぬめとした、底知れぬ執念深さ、陰湿さがあった。

「だから落ち着けって言ってんだ。帰さねえとは言ってねえだろ」
「腕を離さんか! 貴様などに命令される謂われはない! 馴れ馴れしく我に触れるでないわ! 」
「てめえから抱きついて来といてその言い草かよ。そもそも部下にそれほど恨まれてんのは毛利、あんたのこれまでの行いが捲いた種なんだ。諦めて今は体力を戻すことに専念しろ」
「黙れ! 今すぐ船を出せ! それも出来ぬと申すなら貴様などに用はない! 今すぐ我の目の前から消え失せよ! 」

 激昂して体力を余分に消耗してしまったのか、毛利は咳き込み、蹌踉めいて倒れそうになる。
 咄嗟に長曾我部が助けの腕を差し出したが、勿論、毛利には無碍にはね除けられた。

「この、分からず屋が! いい加減にしねえとぶん殴るぞ! 」
「貴様を殺してでも我は安芸へ戻る。邪魔をするな! 」

 長曾我部まで一緒になって動転していても仕方がない。
 落ち着け、と自分に念じると、毛利への苛立ちは一端沈めて、もう一度彼を腕の中に無理やり抱いた。

「よしよし。良い子だから大人しくしてくれよ。まったく、あんたの強情っ振りはうちの親父以上だぜ」
「戯れも、……たいがいに致せ、長曾我部、離さぬか! 」
「いいから。ほら、俺に寄り掛かって、体の力抜いて楽にしてみろって、毛利。ほんの一刻、この土佐で、俺と一緒の時間を過ごしたからと言って、何もあんたの一生分の時間を使い果たす訳じゃない。この元親、やると決めたことは必ず守る。あんたも俺の性分は嫌って程、知ってるだろう」
「やめよと、申しておるのだ……っ!」

 喚く毛利を無理やり自身の胸に押し付けて、背中を抱き、赤子をあやすようにトントンと拍子を叩いて宥めて聞かせる。
 その仕草はますます毛利を激昂させたが、長曾我部から逃れようと藻掻けば藻掻く程、毛利は体力を使い果たし、立っていることすら覚束なくなる。
 気力で奮い立たせているが、それも限界に近いのだろう。

「貴様……、死んで…まえ…っ」

 暴言を吐きながら倒れるように長曾我部の腕の中にもたれ掛かってきた。
 散々文句を言いながら、それでもやはり腕の中の居心地はそれほど悪くなかったのか、咳が収まる頃には毛利は身体を弛緩させ、長曾我部へ体重を預けて来た。
 胸板に諦めきった毛利の呼吸が当たる。
 抱く力を強めると、同じ力で毛利も長曾我部を抱き返して来た。

「貴様は、殺しても殺し足りん。長曾我部」
「俺を憎むことであんたの気力が保てるなら、幾らでも恨めばいいさ。俺はんなことじゃへこたれんよ」
「そうであろ
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