序章
序章
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に押し倒していただろうが、今は昼の日中で、しかも彼は病人だ。
さすがにここまで病的に痩せた彼を見て、抱いて、愛しみたい欲望は欠片も湧いて来ない。
仇敵を前にして、身の内にあるのは彼への同情だけなのが、何とも寂しい気分にさせられた。
「あんたの帰る国はもうねえんだ、毛利」
「だから、何故だと問うておろうが。誰が我が国を奪った。竹中か、それとも九州の大友か?」
「どっちも違う。豊臣は滅びたし、大友は豊後から出て来ねえ」
「では何だと申すのだ! 貴様の話はまどろっこしい」
毛利にしては取り乱している。
それを静かに見守りながら、長曾我部はどうしたものかと顎を指先でなぞった。
正確には、中国と北九州一帯はまだ毛利領である。
毛利の身内である小早川と吉川の両川が国内の内紛を抑えてはいるが、何分にも中国の毛利領は大きく膨らみ過ぎた。
毛利一門とは言え、年若く、経験も浅い、小早川や吉川では広大な領地の監視は手に余った。
何より毛利の強引で厳格過ぎるやり方に不満を抱く臣下は少なくなかった為、主をなくした途端、方々からその憎悪の念が噴き出し、小早川、吉川共にそれを抑え込むのに精一杯で、新しい主を立てて毛利宗家を引っ張って行く余力などなかったのである。
希代の詭計智将と呼ばれ、常に陰謀張り巡らし、他者を陥れてきた彼が、今度は追いやられる側に回ったのだ。
「酷なことを言うが、あんた、てめえがどれだけ恨みを買ってんのか、いくらなんでも自覚はあんだろ? 」
「愚者が幾ら寄り集まろうと造作もない。すぐに叩き潰してくれる」
「だから、あんたのそのやり方が反発を買ったんだ。あんたをこの土佐の海岸で俺が見つけた際、あんたの安芸にも勿論、大将であるあんたが見つかった旨を急ぎ伝える遣いを出した。が、奴らは四国なんぞに元就様がいる訳がないと言ってな。うちの遣いの者を斬って殺して首だけ返しやがった」
信じられぬ、と言う顔で驚愕した毛利は首を横に振っている。
「あり得ぬ。そのような不手際なやり方、一体誰が指示したのだ」
「大方、使者の首を見て怒った俺があんたをこの手で殺すのを期待しての狼藉だろうがよ。この長曾我部元親様は、かつては姫若子と呼ばれ、百姓の童にまで後ろ指指されて笑われた軟弱者だ。弱ってるあんたの首に刃物なんざ突きつけられる訳がねえ。ましてや、惚れた相手なら尚更な」
「……許さぬ。この我に刃向かうなどと、愚昧な真似を。必ず首謀者を捕まえ、首を刎ねてやる」
肉薄な唇を噛み、毛利が怒りを露わにする。
普段は感情の浮き沈みもなく、穏やかな凪のように平坦な機嫌を保つ毛利なのだが、逆鱗に触れた時の変貌振りは尋常ではないのだ。
普段は理性で抑えつけている感情が怒りに我を忘れると制御出来なくなってしまうのかも知
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