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白く咲けるは何の花ぞも
序章
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一瞬だけ、毛利の背後に潜む者の姿が長曾我部の目にも映った。
 神々しい程、眩い光を放つ、深紅色の瞳を持った白い大蛇である。
 無数の蛇が互いの身体を巻き付かせながら、長曾我部へ向かって牙を?いてきたが、懐かしい叢の香りが辺りに満ちたと思った途端、その錯覚も消えた。

「貴様が何と申そうと、我は安芸へと戻らねばならん。我もまた盤上の駒ならば、己が役目を果たさずして、生きさばらえる意味があろうか。己はどうなのだ、長曾我部。この地以外に身の置き所があると、本気でそう思うておるのか? 」

 ともかく今は、目の前の毛利のことだ。
 肩を抱いて落ち着かせてやろうとしたが、邪険に振り払われてしまった。

「落ち着け、毛利。一刻も早く安芸へ帰りたいあんたの気持ちは俺にだって分かる。だが、帰してやれねえ理由もあるんだ」
「理由? ならばその理由とやらを隠さず申してみよ」
「……まあ、おいおいな」

 勘の鋭い毛利のこと。
 歯切れの悪い長曾我部の様子に何となく事情は察したようだが、それでも引くに引けぬのだろう。

「ならば……」

と長曾我部に寄り添うようにぴたりと身体を寄せて来る。

「長曾我部よ。ここで我を安芸へと戻せば、かねてより貴様が望んでいた通り、我の心を貴様に差し出してやっても良い。心なぞ、幾らでもくれてやろう。我を安芸へと帰すのだ」

 痩せて、衰えてはしまったが、やはり毛利は毛利である。
 散々愛しんだ身体を抱いて、何の感情も湧き上がらぬ程、長曾我部は非情になりきれなかった。
 ひんやりと冷えた指先が長曾我部の胸元を探る。
 この冷たさすら愛しい。
 蝋人形のように表情を変えず、歓びも哀しみも面に出すことのない毛利が、閨の中だけは声を上げ、蕩けて見せるのだ。
 その特別感が堪らなく、故に長曾我部も毛利に本気で入れ込んでしまった。
 それも充分分かっての演技だ。
 憎らしいと思う反面、相手の我が儘さえ許容して歓びにすり替えてしまう自分はとことん甘いんだな、と長曾我部は改めて苦笑する。
 だが、それでもやはり駄目なものは駄目なのだ。

「色仕掛けで俺を誑かそうったって駄目だ。もうしばらく、時を待て。機を見て帰してやる」
「いつとはどの程度先の話なのだ。曖でなく、然るべき期限を設けてはっきり申せ」
「だから、そんなのあんたの体力次第だろうが。俺にごちゃごちゃ言ったって……」
「貴様に言わずに誰に言うのだ! 良いから早急に船を出せ、長曾我部!」
「駄目だって言ってんだろ! 何度も同じことを言わすな! あんたがどんだけ帰りたがったって、今の安芸にゃあんたを歓迎する態勢は出来ちゃいねえんだ」
「それはどう言うことだ」

 ここが床の上で、こんな至近距離で毛利と見つめ合っているのなら、すかさず床
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