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白く咲けるは何の花ぞも
序章
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長曾我部の身の内から素直な感慨が込み上げる。

「まさか、自ら他国は侵攻しないと評判高いあんたが、豊臣に刃を向けるたぁ、さしもの俺も予想外だったぜ。同盟結んでこの四国を攻めておきながら、どうして袂を分かって豊臣に兵を挙げた」
「何故、と問われても、理由は様々。取り立てて話すことでもあるまい」
「まあ、いいや──、で、話は医者からおおよそ聞いているだろうが、ここは土佐の俺の根城、浦戸城内だ。あんたは今、俺の捕虜になってる」
「うむ」
「飯やら酒やら……、あんたは酒は飲まねえが、何か必要なものがあれば用意させるぞ。あ、餅がいいか? ってか、食えるのか? 」
「特にはないが──」

 ならば外に出たい、と毛利が言う。
 仇敵が息を吹き返し、初めて漏らした自分への要望である。
 長曾我部も叶えてやらぬ道理はなかった。

「だったらあんたが乗る輿を用意させねえとな」
「輿なぞ不要。歩いてまいる」
「おいおい、つい昨日まで寝たきりだったあんたが一人で歩けるかよ。ろくに食ってもいねえのに」
「不要だと申しておる。良いから湯浴みの支度をさせよ」
「まーた、強がり言っちゃって。ったく、元気になった途端、すぐにこれかよ。待ってろ、急いで用意させる」

 下女たちに毛利の身を清めさせ、重湯を飲ませてから、そうして彼らは城から歩いて一里程の浦戸の湾に来ていた。
 少し急な坂道を降って行くと、広い砂浜が見えて来る。

「足元、気を付けろよ」

 長曾我部にとっては慣れ親しんだ土佐の海だが、毛利がこの地に自分の足で降り立ったのは実に久し振りである。
 いつ以来かと言うと、それは彼らが初めて出会った、長曾我部がまだ「姫若子」とあだ名され、行く末を悲観されていた頃まで遡る。
 この浦戸の城はその姫若子が鬼若子へと転身した、元親の初陣の地、長浜に近しい場所にあった。

「島影一つないのだな、この海は」
「おうよ。この大海原の向こうにも大陸があるらしいが、残念ながら俺もまだそこまでは到達していねえ。世継ぎが出来て、隠居の身になったら、船で旅してみたいもんだぜ」

 土佐の地は日の本でも東の果てにある。
 背後は馬で通るにも難儀する讃岐の山々に囲まれ、眼前はこのどこまでも続く、果てのない大海である。
 余りに交通が不便なことから、かつては左遷の地として都落ちする貴族たちの流れ着く先となっていた。
 左遷の地、土州。
 それが土佐の名の由来であり、元を辿れば長曾我部が土佐を統一するまでは土佐で絶対的な権力を誇り、栄華を謳っていた名門土佐一条家も、そして長浜に根付き長曾我部と名乗るようになる曾我部家も都から流れて来た家ばかりである。
 視界を遮る山もなければ、島影一つない。
 ただひたすら水平線が続く、青く深い大海原は余所者が
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