巻ノ八十 親子の別れその十二
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「それではな」
「内府殿の軍勢だけなら」
「治部殿が勝てる勝算は充分にある」
「その様に持って行く為に」
「是非にですな」
「中納言殿の軍勢をこの城に引き付けますか」
「そうするのじゃ、兄上なら見抜かれるが」
信之、彼ならというのだ。
「先程の話じゃがな」
「中納言殿は、ですな」
「若殿を城攻めに加わらせぬ」
「そうされますか」
「そうじゃ、兄弟同士争わせては評判が悪いな」
幸村も言う。
「そうじゃな」
「はい、確かに」
「どうしても」
「それが戦国の常とはいえ」
十勇士達も幸村に応えて言う。
「よくありませぬ」
「それは人の道に反します」
「どうしても」
「だからそれはされぬ、内府殿ならお話を聞く位はされるが」
家康ならというのだ。
「しかしな」
「中納言殿はまだお若い」
「そこまでされませぬか」
「それに我等と内通するとも思われ」
「それで、ですな」
「それは出来ぬ」
秀忠、彼にはというのだ。
「だから兄上とは戦わぬしな」
「中納言殿もまた、ですな」
「若殿は城攻めには用いることなく」
「それで、ですな」
「策を仕掛ければ」
「全軍で城攻めにかかりますか」
「その軍勢から城を守りきる」
こうも言った。
「わかったな」
「はい、では」
「敵の軍勢は三万以上といいますが」
「思う存分戦ってやりまする」
「我等もまた」
「それぞれ」
「頼むぞ、では今は飲んで食う」
幸村は鯉も食う、そのうえでの言葉だ。
「そして英気を養うぞ」
「さすれば」
十勇士達も応えてだ、鯉に野菜に山菜を食ってだ。酒の飲む。そうしつつ彼等はこうしたことも言った。
「生まれた時と場所は違いますが」
「我等死ぬ時と場所は同じ」
「そう誓ったからには」
「ここは死にませぬ」
「首だけになろうとも」
「その様にな、この戦だけではないやも知れぬ」
幸村も杯を手にしつつ応える。
「より大きな戦があるやも知れぬからな」
「さらにですか」
「これから」
「そうやも知れぬからな」
だからこそというのだ。
「御主達も命は大事にせよ」
「わかりました、では」
「この度の戦もです」
「そうします」
「是非な」
このことは念を押してだった、幸村は今は十勇士達と共に鯉鍋を楽しんだ。戦が近付いているのをはっきりと感じながら。
巻ノ八十 完
2016・11・2
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