巻ノ八十 親子の別れその十
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「共にです」
「その魚を食うか」
「そうします」
「わかった、では食うがよい」
「それでは」
こうしてだ、幸村は父との話の後十勇士達のところに戻ってだ。そのうえで彼等のところにその魚を持って来た、その魚は。
「おお、鯉ですか」
「これは見事な鯉ですな」
「ではその鯉をですか」
「これより」
「実は五匹ある」
鯉はというのだ。
「それを皆で食おうぞ、野菜も山菜もあるぞ」
「鍋ですな」
「今宵は鯉鍋ですか」
「それを皆で喰らい」
「精をつけよというのですな」
「わかっておろう、戦じゃ」
幸村は微笑みながらも目の光を鋭くさせて十勇士達に言った。
「間もなくな」
「そうですな、空気を感じます」
「戦の匂いが近付いていますな」
「やはり戦ですか」
「その時が近いですか」
「そうじゃ、御主達にも働いてもらう」
鍋やまな板、包丁等は十勇士達が用意していた。幸村はその用意を自らも手伝いつつそのうえで言葉を続ける。
「思う存分な」
「はい、腕が鳴ります」
「それではです」
「暴れ回ってやります」
「そして敵を退けてみせます」
「頼むぞ、御主達は拙者と共に戦ってもらう」
野菜や山菜、他の鯉も出されていた。そうしたものも切られていっている。
「共にな、しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「何かありますか」
「死ぬことは許さぬ」
このこともだ、幸村は言ったのだった。
「決してな」
「どれだけ激しい戦になろうとも」
「それでもですな」
「戦の場では死ぬな」
「生きよというのですな」
「危うくなれば逃れよ」
こうもだ、幸村は言うのだった。
「よいな」
「はい、わかりました」
「それではその様にです」
「戦いまするが危うくなればです」
「その時は逃げます」
「そうして生き残りまする」
「無論わしも父上も死なせる策は用いぬ」
それは決してというのだ。
「断じてな」
「左様ですか」
「大殿もですか」
「そうした策は用いられぬ」
「そうされますか」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「何があろうともな」
「戦には勝とうとも」
「死ぬ策は用いぬ」
「そうされますか」
「今は死ぬ時ではない」
幸村はまた言った。
「だからじゃ」
「では鯉で精をつけ」
「そして、ですか」
「存分に戦い生きる」
「そうせよということですな」
「そうじゃ、鯉はたんとある」
もう既に切られている、鱗は既に落とされていて後は鍋の中に入れて煮るだけの状況だ。鍋には味噌が入れられている。
「食うぞ」
「酒もですな」
「それもありますな」
「では酒も飲みますか」
「そちらも」
「そうじゃ、やはり酒がないとな」
どうしてもというのだ。
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