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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二話 監視役
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陽動をかけることで相手を翻弄し時に逆撃を誘いました。しかし彼はそれに見向きもしなかった。ただただ自軍を混乱させずに後退させる、そのことのみに専念していたんです」

「だからシミュレーションを打ち切ったのかね」
「ええ、そうです。意味がありません」
「なるほど」

勝敗を決めるシミュレーションで最初から撤退、つまり敗北を選択している。敵わないと見たからなのか、それとも他に理由があるのか……。
「彼は何故そんな事をしたのだと思うかね」
私の問いかけにヤン中佐は躊躇いがちに言葉を出した。

「ヴァレンシュタイン中尉はシミュレーションは嫌いだと言ったと聞きましたが?」
「そうだが、それが関係有るのかね」
「シミュレーションに一喜一憂する人間を嘲笑ったのかもしれません。勝を求めず如何に上手く撤退するかを検討するのもシミュレーションだと」
「……」

「実際に損害は少なかったはずです。あれが実戦だったらとても勝ったとは喜べません」
「なるほど……。つまり彼はかなり出来るのだな」
「ええ、おそらく実戦のほうがより手強いでしょう」

なるほど、道理でヤン中佐が話さないわけだ。シミュレーションに一喜一憂する人間を嘲笑った等と言ったら、それこそ大変な騒ぎになるだろう。馬鹿にするのかと息巻くものも出るに違いない。そしてヤン中佐が顔を強張らせたのも今なら分かる。

もう少しで自分もシミュレーションに一喜一憂する人間になるところだったと思っているのだろう。勝利者の名を得る一方でヴァレンシュタイン中尉から軽蔑をされていた……。その思いがあるのに違いない。

エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中尉か……。外見からは想像もつかないが一筋縄ではいかない男のようだ。確かに手強いだろう。





宇宙暦 792年 7月 3日 ハイネセン 後方勤務本部 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン



ようやく情報部から解放された。これで俺も自由惑星同盟軍、補給担当部第一局第一課員エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中尉だ。いやあ長かった、本当に長かった。宇宙では総旗艦ヘクトルで、ハイネセンでは情報部で約一ヵ月半の間ずっと取調べだ。

連中、俺が兵站専攻だというのがどうしても信じられないらしい。士官学校を五番で卒業する能力を持ちながらどうして兵站なんだと何度も聞きやがる。前線に出たくないからとは言えんよな、身体が弱いからだといったがどうにも信じない。

両親の事や例の二百万帝国マルクの事を聞いてきたがこいつもなかなか納得してくれない。俺がリメス男爵の孫だなんて言わなくて良かった。誰も信じないし返って胡散臭く思われるだけだ。

おまけにシミュレーションだなんて、俺はシミュレーションが嫌いなんだ。なんだって人が嫌がることをさせようとする。おまけ
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