一章 小さき魔物 - 海竜と共生する都市イストポート -
第14話 母親
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りどうしたの」
このあとは、少し休んだらこの都市から出発することになっていた。当然ティアは驚いている。
「港に現れたあのシーサーペント、最初から……暴れて死ぬつもりだったのかもしれない」
「え? 自殺ってこと? 動物が自殺なんてするの」
「基本的にはしないけど、種族保存の本能はどの動物にもあって、それはとても強くて、個体の保身よりも優先されるものだ――と、師匠から教わった」
例えば、ある種の蜂は集団を助けるために個体が決死の攻撃をして、死ぬ。
個のレベルでは、生還の見込みがないのに突っ込んで死ぬというのは不合理である。だが、いくつかの個体が華々しく死ぬことで集団が守られるのであれば、全体で見れば合理的と言えないこともない。
昆虫である蜂が、自己犠牲の美学を持っているわけではない。だが、種族保存の本能による見えない力で、蜂の個体はそのように行動する意思を持つよう仕組まれている。
今回、それと同じようなことが、よりスケールを大きくして起きたのではないか。
「つまり、工場の毒の情報を入手して、そして実際に水を確認したとき……シーサーペントの本能が、その毒を『種の存続を脅かすもの』と認定したんだと思うんだ。『こんなものが色々な川から海に流れるようになってしまったら危険』とね。
あのシーサーペントは『昔から浜を使っているのは自分たちのほうだ』と言っていたけど、そのような感情すらも、見えない自然界の大きな力によって生み出されていたものなのかもしれない。
そして種族の未来のため、『命と引き換えに、人間に対し抗議と警告をする役』をやることになった――」
「むー、なんか難しいね。でもシドウ、さっきのシーサーペントは? ピヨピヨの母親だと思うけど、別に戦いに来たわけじゃなかったよね?」
「うん。戦うために来たわけじゃなかった。それは、母親がいないとピヨピヨが生きられないからだと思う。それも、種族保存の本能が、復讐よりも子供を生かすことを優先させたんだ」
「なるほど……」
「だから俺らが、一番近くで見た俺らが、あのシーサーペントの死の意味を都市側に伝えてあげないといけないと思う。しっかり伝えて、こういう事件が二度と起きないようにしないといけない。そうじゃないと浮かばれないよ。
命をかけて演じた役……果たさせてあげないと」
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