30部分:南へその六
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家の帝都であり続けた。三重の城壁に囲まれた帝都は二百万を越える人口を擁し、皇帝アルヴィスが鎮座する本城は壮麗な造りで知られている。
外部は堅固な城壁、内部は白亜の大理石を基に多くの黄金は白金、色とりどりの水晶や宝玉で飾られていた。部屋数は千を優に越え、精強をもってなる炎騎士団と共に帝国の権威の象徴としてグランベル大陸全土を圧していた。その中の一室に暗い影が集まっていた。
「そうか、イザークが陥ちたか」
黄金と白金の刺繍で飾られた豪奢な丈の極めて長い黒い軍服とズボン、マント、そしてブーツで身を包んだ少年が言った。奇妙な声である。澄んだ高い硬質の美声と同時に肉食獣の唸り声の様な声が同時に発せられている。細く女性の様な身体に雪の様な細い中世的な白面、それとは対照的な深紅の長い髪にルビーの瞳、額には奇妙な紋章がある。白く細長い指には長く伸びた紅い爪が生えている。
「それに呼応し各地で反乱が起こりセリス公子の下に多くの者が集まってきていると」
周りで蠢く無数の影達が部屋の中央で腕を組み立っている少年に不気味な声で囁いている。見れば部屋は闇夜の様に黒く染められ蛇や蟾蜍、鼠、家守といった生物達が徘徊し、照明のシャンデリラは一つ一つが血の様に紅い水晶で作られた髑髏である。
「ふふふ・・・・・面白い」
少年は不可思議な声をまた発した。
「再び戦が始まる。今度こそ私が世を支配する」
少年は髑髏のシャンデリラから下がっている一匹の蛇を掴み取るとその腹を握り潰し、頭をそのまま口に入れ喰った。肉を潰し咀嚼する胸の悪くなる音がし手がドス黒い血で染まっている。
「ミレトスに行くぞ。そして彼の地を他の国より遮断しろ。猫の子一匹たりとも通さぬ程にな」
影達が頭らしきものを垂れ闇の中に消えていった。部屋には少年一人だけが残った。
「いよいよ私の世界が再び幕を開ける。恐怖と絶望に覆われた世界がな」
少年は笑った。紅い髑髏に照らされるその影は人のものではなく禍々しい竜のものであった。
第一夜 完
2003・10・24
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