No.free:バレンタインでは(妄想の中でなら)フラれておりません。
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き
間抜けな顔をしているであろうオレへ、ことりちゃんは優しく微笑みかけた。
「本当はね……ことり、ゆーくんのことが大好きなんだ」
念願のことりちゃんの告白。でも、オレは想定していたよりもずっと穏やかにその言葉を受け止めることができた。てっきりハッピーな気持ちにまかせて乱舞すると思っていたのに、ただ漠然と温かい何かが胸中ではじけた。
だけど、いつまでも余韻に浸っているわけにもいかない。せっかくことりちゃんが歩み寄ってくれたのだ。オレもしっかり、改めて彼女に伝えたい。
「……やっと、積年の夢が叶った」
昔の苦い記憶がよみがえってきた。幾度の告白と、その失敗が。だが関係ない。今は今だ。ことりちゃんへ、ひたむきに想いを告げるのだ。
オレはことりちゃんを抱き留めながらまっすぐに見据え、最後の告白をした。
「ことりちゃん。オレ……能勢雄輝はあなたのことが世界中の誰よりも大好きなんだ。だから、どうか……どうかっ、オレと付き合ってください!」
ことりちゃんの瞳が淡く潤んだ。しかし、すぐにハッとしてそこを拭うと、今日一番の笑顔で返事をしてくれた。
「はい、こちらこそよろしくお願いしますっ。これからは、ずっと一緒に――――」
そして、ことりちゃんは目を瞑った。オレは全てを察して彼女の肩におそるおそる手を置き、同じく視界を闇に預けた。決着の時だ。
見えない中、お互いの顔は近付き。
やがて、吐息のかかる距離まで詰まり。
ついに、甘くてソフトなキスを交わした――。
――――――――
「こんなふうにチョコを貰って、最後はあんなふうになって……ぐへ、ぐへっ……」
オレは興奮に負けて真剣な表情を綻ばせた。ここまでの下りは言わずもがな100%妄想なのだが、いざイメージしてみるとどうしてもニヤついてしまう。もはや毎年の恒例行事なので今更どうということはないが。
妄想によって上昇したテンションを持て余しながら、それからオレはイベントが起こることを期待して自室で待ち続けた。
――今年は、今年こそは……チョコが貰えるかもしれないぞ!
そういうありきたりで無根拠な自信を糧に。
しだいに日は西へ傾き、落ちていった。青かった空はだんだんと茜に、さらには暗い藍色に。
「……うん、知ってた」
無情にして無念、バレンタインは依然として変化なく終わりを迎えていったのだった。
「ああ……ちくしょうッッッ!」
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ