No.free:バレンタインでは(妄想の中でなら)フラれておりません。
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服の裾を掴み――引き止めたのだ。
「……うん」
鼓動が急加速するのを自覚しながら、オレはぎこちなく頷くのだった。
「……」
「……」
気まずくもどこか居心地の良い沈黙が広がり始めた。オレの背には半開きのドア、正面にはもじもじとしていることりちゃん。革命が起きるかもしれない――なんて切望に似た希望が震えと化して、体を駆け巡った。
――も、もどかしい! 照れくさすぎてとても耐えられない……!
オレは何でもいいからと話題を展開しようとした。が、それよりも微かに早くことりちゃんが明確な行動に出た。
「そ、そのっ! ゆーくんに、受け取って欲しいものがあって……」
そんな言葉と共に。ことりちゃんはせかせかとした手つきで、ポーチからある物を取り出した。
「え」
瞬間――さっきとはまた違う類の緊張が走り、今度はまるで石になってしまったかのように全身が固く強張った。けれども、我ながらそうなるのは仕方ないと思った。
ことりちゃんの手に、あったから。
すっきりとした深緑のリボンで簡素な装飾をあしらってある紅い箱が。バレンタインチョコと思わしき――手の平サイズのプレゼントが!
「ことり……ちゃん。オレの勘違いや自惚れかもしれないけど、これってもしかして……」
オレは顔に熱が集まっていくのを感じつつも、どうにかパクパクと口を動かして問い掛けた。するとことりちゃんは白い肌を耳まで赤くして、
「バレンタインチョコ、ですっ」
ゆっくりと――肯定した。
「ふお……ふおおおおっ!?」
あまりに強い衝撃を受けたのでうっかりふらついた。たった今、信じられないことが起きたのだから。
「……へへっ」
次いで、みるみる頬が緩む。血の流れがますます早くなる。
「あうぅ……はい、どうぞ」
そのまま、ことりちゃんは恥ずかしさを堪えるように箱を差し出した。
――ことりちゃんがオレにバレンタインチョコを……!
「こっ、ことりちゃーん! ことりちゃん、ことりちゃんっ! ありがとおおおおっ!!」
いよいよ高ぶりまくった感情が激しくあふれた。どうしようもなく嬉しさが爆発し、オレはことりちゃんへ飛びつきにかかる。たとえ普段みたくかわされようが構わない。こうせずにはいられなかった。
結果、全身に突き抜けたのは空振りの手応え――
否、ことりちゃんの柔らかい感触と良い匂いだった。ことりちゃんはよけなかったのだ。
「おろっ……?」
困惑の声をあげたのはオレ自身。おそらく今回もことりちゃんは抱擁をかわすだろうと、たかをくくっていたゆえだ。
「えへへ、とうとう捕まっちゃった」
きっと
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