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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第一話 亡命者
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大きすぎます。それにその口座が開設されたのは五年前です。二百万帝国マルクもそのときに入金されています。入金者はリメス男爵、ヴァレンシュタイン中尉の証言に間違いはありません」
部屋に沈黙が落ちた。どう判断して良いのか分からない、それがようやく分かった。なんとも妙な亡命者だ。一つ一つが有り得ないことなのだが、理由を聞けば確かに正しいように見える。しかしその理由が最初から用意されたものだとしたら……。いや、大体こんなおかしな身分を用意してスパイに仕立て上げるだろうか……。
「もし、彼がスパイなら五年前から帝国は彼を用意した事になります。しかし、そんな事がありえるとは思えない。と言って彼が本当に亡命者なのかと言えば、それにも疑問が出てくる。判断できないのですよ」
バグダッシュ大尉の言葉に自然と俺は頷いた。
「我々にとってスパイは恐ろしい存在ではありません。それが分かっていれば監視も出来ますし利用も出来る。しかし分からないというのは困ります」
「だから俺のところで監視するという事か」
バグダッシュ大尉が頷いた。
「ヴァレンシュタイン中尉はハイネセンに到着後、約一ヶ月の間、情報部で調査を受けます。それまでにミハマ少尉を有る程度の補給担当士官にして欲しいのです。中尉の配属後は彼女を補佐役に付けてください」
俺がミハマ少尉に視線を向けると彼女は笑みを浮かべて頭を下げた。
「よろしく御願いします」
「分かった、そうしよう」
「彼女の配属は明日にも内示がおりますが、その時点でそちらに送ります」
「了解だ」
話が終わったと判断したのだろう。二人が帰ろうとしたが、帰り間際にバグダッシュ大尉が妙な事を言い出した。
「そう言えば、大佐はヤン中佐と親しかったですな」
「そうだが、それが何か」
「ヴァレンシュタイン中尉とヤン中佐が戦術シミュレーションで対戦したそうです」
「!」
対戦、ヤンがヴァレンシュタイン中尉と?
「どうなったかな」
「それが……」
バグダッシュが困惑したような声を出した。妙だな、勝ったのではないのか。ヤンが負ける? それこそ有り得ん話だが……。
「妙な結果になったそうです。小官にも良く分かりません。いずれ中佐が帰ってきたら直接尋ねてみてください。私も知りたいと思っています」
そう言うとバグダッシュ大尉は部屋を出ていった。妙な話だ、何が起きた?
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